顧問の部屋

第9回 日本及び各国の測地基準座標系

9.各国の測地基準座標系

 今回は、我が国を中心に主な国の測地基準座標系(測地系)の現状を紹介したいと思います。現在は、衛星測地を利用するため地球基準座標系(世界測地系、地心測地系)の時代です。2015年2月26日の国連総会で、測量分野では初めてとなるGGRF(地球規模の測地基準座標系)に関する決議(参考文献3)が可決されました。決議では、地球基準座標系が測地・測量だけでなく社会経済に重要であることを認め、加盟国全体による基準座標系の維持と普及を促しています。

 前回に述べましたが、ITRFのような地球基準座標系の構築以前は、各国は国内にある測地原点の位置を天文測量によって決定し、そこで準拠楕円体をフィットさせることによって(ローカルな)測地系を形成し国家の位置基準としてきました。現在では、衛星測位などの宇宙測地観測を行い、グローバルな地球基準座標系での位置を正確に決めた基準点を骨格として国家の位置基準を構成することが可能になりました。原点は地球重心であり、準拠楕円体もその中心を地球重心と一致させることにより世界中ほぼ同じ基準で位置を測り知ることができます。

 しかし、地球上の点の位置は、時々刻々動いています。第6回でもお話ししたように衛星測位の精度が向上するとともに位置の変動への適切な対処が必要になってきます。測地系では、オフィシャルな(国内の基準としての)位置とGNSSが示す「今」の位置とのギャップをどう埋めるか、が課題です。

9.1 日本

 我が国の測地系は、2000年代に大きく変わり従来の日本測地系から世界測地系へと転換しました。日本における位置の基準は測量法により規定されていますので、その転換には法律の改正が必要でした(参考文献4第3章参照)。

 かつての日本測地系は、前回でも述べたようにローカル座標系です。ベッセル楕円体に準拠し、天文及び三角測量によって位置を決めたものでしたが、その後の宇宙測地技術による測量で実際の地球とは大きくずれていることがわかりました。ずれの最大原因は、採用されたベッセル楕円体の半径がGRS80のものより700m余り短かったためです(図1)。

 

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図1.日本測地系のずれ(参考文献4より)

 

 

 そこで衛星測位に対応すべく2002年度からの改正測量法の施行により地球中心に原点を持つ日本測地系2000 (JGD2000)に移行しました。JGD2000は、長期間のVLBI観測で決定されていた鹿島26mアンテナのITRF94(元期1997.0)での位置を基準にしています。しかし、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により東日本全体が大きく動き、測地成果の改正が必至となりました。そのため、つくばVLBI点の位置をITRF2008内で決定し元期2011.4(2011/05/24)において関東・東北・北陸の位置を改訂しました。改訂量には地震の影響の外に累積変動量が含まれていますが、改訂のなかった西日本と北海道を含め日本全体が日本測地系2000から日本測地系2011(JGD2011)となりました(図2)。

 

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図2.日本測地系2011(参考文献4より)

 

 また、日本は4つのプレートの境界上に位置し、地殻変動が複雑で大きな地震もたびたび起こります(図3)。そのため正確な衛星測位に対応するためセミ・ダイナミック補正を取り入れています。これは定期的に提供された元期から観測時までの地殻変動パラメータを用いて衛星測位で測った現在の位置を元期の位置に換算する仕組みです。

 

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図3.日本の変動ベクトル(2016 – 2017)
(国土地理院の最新の地殻変動情報: http://mekira.gsi.go.jp/project/f3/ja/index.htmlによる表示)

 

9.2 オーストラリア

 オーストラリアは世界測地系に最も早く移行した国の一つで、1995年ITRF92(元期1994.0)を基準としたGDA94を採用しました。しかし、その後のITRFの進歩やGDA94の座標が2020年にはITRFと1.8mもの差が出ることから、昨年GDA2020という座標系に移行しました(図4)。GDA2020は、ITRF2014(元期2020.0)を基準としてオーストラリア全土のデータを厳密な3次元網平均によって計算したものです。

 さらに2020年以降はATRF(オーストラリア地球基準系)というダイナミックな座標系(基準点には速度も与えられ、位置は時間の関数となる)を利用できるように準備しています。オーストラリアは座標系に関しては世界で最も進んだ国といえるかもしれません。

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図4.オーストラリアの速度ベクトル(参考文献2より)

9.3 ニュージーランド

 ニュージーランドは日本と同じような地震国で、地殻変動も国内で複雑です(図5)。1998年に地心系のNZGD2000に移行しました。NGZD2000は、ITRF96(2000.0)を基準としていますが、同時にニュージーランド変動モデルを提供してセミ・ダイナミック系を実現しています。モデルは何回か更新されており、地震によるパッチも当てられています。

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図5.ITRF96におけるニュージーランドの速度ベクトル
(LINZ: Land Information New ZealandのHPより)

9.4 中国

 中国も20世紀後半から地心測地座標系の準備を進め、2008年7月、国家測地座標系2000(CGCS2000)に移行しました。さらに2010年代になりGNSSに基づく現代的な座標系の維持管理を始めています。これは、360の国家GNSS連続観測点(NGCORS)を基盤とし、全国の測地網、水準網、重力網も更新するものです。CORSの数はさらに増大すると予想されます。

9.5 韓国

 韓国は2007年1月に世界測地系KGD2002に移行しています。VLBIによって韓国国土地理情報院内の原点位置を固定し、GPS連続観測局網の座標を決定しました。KGD2002は、 ITRF2000(元期2002.0)準拠、楕円体はGRS80です。

9.6 アメリカ合衆国

 アメリカはおそらく世界で最初に地心系を採用した国です。地心座標系はNAD 83と呼ばれ、BIHの1984年座標系に準拠し楕円体としてGRS80が選ばれました。そして1986年、過去の膨大な地上測量データと衛星ドップラー観測(GPS以前の衛星測位方法)を平均計算した北米プレート固定の座標系NAD83(1986)として発表されました。その後、GNSS観測が主流となり連続観測点(CORS)とそれに基づく(NAD83よりも高精度な)基準点網が構築されたため、NAD83も何回かの全国再計算(CORSとGNSS基準点のみ)が実行されています。最新のものはNAD83(2011)でIGS08に合わせており元期は2010.0です。また、北米と違うプレートに固定されたNAD83(PA11)(太平洋プレート上のハワイなど)とNAD83(MA11)(マリアナプレート上のグアムなど)が実現されています。

 さらに、NGS(アメリカ測地測量局)は、2022年に測地基準座標系の現代化を行うと発表しています。NAD83は後の正確な観測により中心が地心より2m程度ずれていることがわかっています。新しい測地系は、そのずれを解消するとともに4つのプレート固定の座標系(北米、太平洋、マリアナ、カリブ)(図6)を持つ予定です。それぞれは元期においてITRFの最新版と一致するものですが、プレート運動のパラメータを与えられたセミ・ダイナミック系となる予定です。

 

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図6.GPSによる基準点速度ベクトル
アメリカ合衆国領内には、北米、カリブ、太平洋、およびマリアナプレートがある(注)。(UNAVCOのGPS Velocity Viewer: http://www.unavco.org/software/visualization/GPS-Velocity-Viewer/GPS-Velocity-Viewer.htmlによる表示)

(注)カリブプレートはマイアミ半島の南、マリアナプレートはフィリピン海プレートの東端にある小さなプレートです。

9.7 ヨーロッパ

 ヨーロッパに関しては、1990年代にIAG(国際測地学協会)の中にEUREF(欧州基準座標系小委員会)がつくられヨーロッパのための統一的な座標系ETRS89 が定義されました。これはITRSを基準としながら、ユーラシアプレートの安定部に固定された座標系です(図7)。ヨーロッパに特化した座標系と考えられ、その実現としてETRFyy(yyはITRFに対応する年号)が構築されています。最初のものは元期1989.0で最新版はETRF2014です。ETRSの使用についてはEUの欧州委員会が勧告しており、加盟国の多くが公式に採用しています。もちろん各国は歴史的に独自の座標系を持っており、どのような場合でもETRSを使用しなければならないということはありません。例えば、

 英国は、OSGB36(従来からの測地系)、OS Net (ETRS89準拠)

 フランスは、NTF(従来からの測地系)、RGF93(ETRS89準拠)

 ドイツは、ETRS89、DHDN(従来からのポツダム系)他

 を使用しています。

 ヨーロッパ各国の測地系についてはヨーロッパの基準座標系サイト(http://www.crs-geo.eu/homepage.htm)にまとめられています。

 

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図7.EUREF観測点(参考文献1より)

 

9.8 スタティックからセミ・ダイナミック(ダイナミック)へ

 現在多くの国では、座標の値が時間を経ても変わらないスタティック座標系を採用していますが、地殻変動が複雑な国々ではセミ・ダイナミック系を採用するところが増えています(ニュージーランド、日本、インドネシア、アイスランドなど)。また、オーストラリアは一歩進んで数年後にダイナミック系を採用する予定です。セミ・ダイナミックかダイナミックかは各国の事情により異なり、オーストラリアのようにほとんど単一のプレート上にあり変動が一様ならばダイナミック測地系が有効です(図4)。いずれにしても、マルチGNSSを迎え高精度な位置の取得が容易になった今、ユーザーへのサービスを考えると、位置の基準を与える測地系はさらに正確で使いやすいものへと変わってゆく必要があるでしょう。

 なお、弊社では、精密単独測位(PPP)の地殻変動を処理してcm級の位置を求める「セミ・ダイナミック リダクション」を開発してあります。

 

 今回で「座標系の話」連載をひとまず終えることにします。ただ、上にも述べたように衛星測位をさらに利用・活用するため座標系は日々進化していますので、更新や変更があった場合はサイト内で随時お知らせしていきたいと思います。

 

略語集

BIH Bureau International de l’Heure 国際報時局
CGCS2000 China Geodetic Coordinate System 2000  中国地球座標系2000
CORS Continuously Operating Reference Stations (GNSS)連続観測基準点
ETRS89 European Terrestrial Reference System 89 欧州地球基準座標系89
EUREF Reference Frame Sub-Commission for Europe 欧州基準座標系小委員会
GDA94 Geocentric Datum of Australia 1994 オーストラリア地心測地系1994
GGRF Global Geodetic Reference Frame 地球規模の測地基準座標系(国連の用語)
IAG International Association of Geodesy 国際測地学協会
IERS   International Earth Rotation and Reference Systems Service 国際地球回転・基準系事業
IUGG International Union of Geodesy and Geophysics 国際測地学及び地球物理学連合
JGD2000 Japanese Geodetic Datum 2000 日本測地系2000
KGD2002 Korean Geodetic Datum 2002 韓国測地系2002
NAD 83 North American Datum of 1983 北米測地系1983
NGS National Geodetic Survey 米国測地測量局
NZGD2000 New Zealand Geodetic Datum 2000 ニュージーランド測地系2000

参考文献

  1. Bruyninx, C., Roosbeek, F., Habrich, H., Weber, G., Kenyeres, A. and Stangl, G., The EUREF Permanent Network Report 2000, http://www.euref.eu/euref_docs_reports.html.
  2. Intergovernmental Committee on Surveying and Mapping, Geocentric Datum of Australia 2020 Technical Manual Version 1.1, 8 January 2018.
  3. 宮原伐折羅,地球規模の測地基準座標系に関する国連総会決議と国土地理院の貢献,国土地理院時報(2015,127集)
  4. 中根勝見,横井貴史,地球上の位置を表す理論とその仕組み,アイサンテクノロジ―株式会社,2015.

 

 

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