連載

第5回 時刻系

5.現代の時刻系

 前回までの天体座標系及び地球座標系について解説のなかで、いくつか時間についての言及がありました。
 私たちが住んでいる世界を記述するための座標系という意味では、空間が3次元+時間が1次元の4次元が必要になります。現代では、アインシュタインの相対性理論によって、時間・空間を統一的にとらえなければならないことがわかってきました。統一的にとらえた空間と時間を時空と呼びます。時間の進みが重力場や速度によって異なるという相対論の結果は現代の測定技術によって十分検証可能になり、相対論を考慮しなければ正確な結果が得られないという時代になりました。よく知られているように、GPS衛星に搭載されている原子時計は、電波に載った時刻が地上に届いたときに地上の時計と合うように歩みが少し遅く調整されています。図1は衛星上の時計の歩みのずれ(重力が弱いことによる時計の進み+速度による遅れ)を示したものです。GPSの場合、1日に約38.6μ秒進むことになります。ただし、測地学・測量ではほとんどの場合、相対論的効果は非常に小さいので、空間と時間を分けて取り扱っても問題ありません。もちろん長さや時間のスケールは、相対論の枠組みで決められています。

 

5.1

図1.円軌道の衛星上の時計のずれ。横軸は軌道半径、縦軸は時計のずれ×10^12。
(Neil Ashby, “Relativity in the Global Positioning System”, Living Rev.
Relativity, 6, (2003), 1. より)

 

 また、時間(時刻)を知ることは私たちの生活のなかで重要な部分を占めていますが、全世界がネットワークでつながっている現代社会では、統一的かつ正確な時刻のシステムが必要不可欠です。正確な時刻と位置を知り、それらをすぐに利用できる仕組みは、地理空間情報を高度に活用する社会の基盤となるものです。
 今回は、時間のシステムについてまとめました。

5.1 時間の単位と流れ

 時間の単位である1秒は、国際単位系(SI)においてセシウム原子が放射するある電磁波の周波数の整数倍と定義されています(参考文献1)。非常に正確な原子時計(セシウム原子時計、ルビジウム原子時計など)が発明され、現在は原子時計を基準として時間が管理されています。国際原子時(TAI)とそれに基づく協定世界時(UTC)が現在の時刻標準です(後述)。
 相対論によって絶対時間(宇宙のどこでも時間は一様に流れる)という概念がなくなりました。観測者の持っている時計は、他の人から見ると観測者の動きといる場所によって流れが変わります。それを固有時といいます。固有時は空間の性質だけで決まり座標によらない量なので、物理学の法則を書き下すのに基本的な役割を持っているのですが、物体の位置や運動を知るためには、誰もが参照できる座標系(4次元)を確立する必要があります。4次元座標系の座標をt1と書くとき、時間座標t2を座標時といいます(図2)。

 

5.2

図2.観測者の運動と固有時(τ)、固有時の流れの方向(矢印)

 

 大きな質量の物体がそばにあると、その重力ポテンシャルによって時空がゆがみ、長さや時間の流れが変わります。ゆがんだ時空を表すためには、ある点における固有時の歩み(あるいは長さ)を座標に依存する形で書けばよいことになります。相対論の枠組みで4次元の座標系(原点、軸の方向、長さと時間の単位とスケール)を定義するというときには、その座標系によって時空を(ゆがみも含め)十分正確に表現できるという意味をもっています。ただし、太陽系内では重力はそれほど強くないので、BCRSやGCRSの中で表した運動は、ニュートン力学での解に太陽系内の各天体の重力ポテンシャルと速度の影響を補正した形になっています。

5.2 様々な時間システム

 人類の歴史からみると、地球の自転を基に時間を測り時刻を決めてきたのは極めて自然なことでしたが、観測技術の進歩とともに地球自転が一様ではなく変化していることが明らかとなりました。世界時(UT)は、平均化された太陽の運き(=地球自転)から定義された時刻系です。

 天体の運動を正確に知るためにも時間が必要です。天文の世界では、均一に進む時間スケールが必要となり暦表時(ET)が使われました(1950-70年代)。純粋に力学的に天体の運動(太陽、月、惑星)から定義されるもので、力学時といわれます。ただし、ニュートン力学の枠組みで定義されたものだったため、現在では相対論の枠組みで定義された時間システム(座標時)に置き換えられています。
 以下、様々な時刻系、座標時を簡単に解説します。

 

TCB:太陽系重心座標系(BCRS)の座標時。連載第2回で「太陽系重心の時間」と書いたものですが、重心の固有時間ではなく太陽系から遠く離れたところにある(つまり重力の影響がない)時計の歩みと考えてよいでしょう。

TCG:地心座標系(GCRS)の座標時。連載第2回で、「地心の時間」と書いたもの。GCRSは、地心において地球外のポテンシャルが0になるよう定義されており、TCGは、地心に置いた時計から地球のポテンシャルの影響を除いたものと考えられます。

TT :地球時。ジオイド上の観測者の固有時と同等の歩みを示す座標時。IAUの決議により、TTは以下の式のように、TCGと比例しながらわずかに歩みが違う時間スケールであると定義されています。

 5.2.2





TTは、地球上での宇宙測地観測に用いられます。次に述べるTAIは、実用上TTの実現値と考えてよく、
    5.2.3
となっています(常数値は元期の違いによるもの)。

TAI:国際原子時。各国の研究所にある数百台の原子時計のデータを比較し、ジオイド上にあるものとして平均した時刻系で、BIPM(国際度量衡局)が計算・管理しています。1958年1月1日0時に世界時との差を0として出発しました。

UTC:協定世界時。TAIを基準としていますが、世界時(UT1)になるべくあわせた時刻系です。一般の社会生活の時間基準で各国の標準時もUTCに従っています。UT1-UTCが0.9秒を超えないようにうるう秒が挿入されるため、TAIとは整数秒だけ違っています(図3)。うるう秒の挿入はIERSが決定・発表します。

UT1:地球回転から得られる時刻系。VLBIの観測から決められています。

 

5.2

図3.国際原子時と協定世界時、うるう秒の関係         (http://www.miz.nao.ac.jp/vlbi/leapsec.htmlより)

5.3 時間と長さのスケール

 長さの単位1mは、第3回でも述べたように、光が一定時間進む距離で定義されます(参考文献1)。従って時刻系を決めれば長さのスケールも決まります。ITRSの定義では、長さはTCGによって決める(連載第3回)とありますが、実は現在のITRFの長さのスケールはそれに従っていません(参考文献2, p.39-40)。ITRFの計算の際、すべての解析センターはTTを使った観測データの解析結果を提出しているため、ITRFの長さスケールもTTに従ったものになっています。厳密にITRSの定義通りTCGに従ったスケールにするには、ITRFの座標値に(1+LG)を掛ける必要があります。つまり、

   5.3.1
です。

 

BIPM  Bureau International des Poids et Mesures  国際度量衡局
ET     Ephemeris Time  暦表時
IERS   International Earth Rotation and Reference Systems Service 国際地球回転・基準系事業
TAI    International Atomic Time  国際原子時
TCG   Geocentric Coordinate Time 地心座標時
TCB   Barycentric Coordinate Time 太陽系重心座標時
TT    Terrestrial Time 地球時
UT    Universal Time 世界時
UTC   Coordinated Universal Time 協定世界時

 

参考文献
1. The International System of Units(SI), 8th edition; Bureau International des Poids et Mesures, 2006.
2.Petit, G. and Luzum, B.(eds.), IERS Conventions (2010), IERS Technical Note; No. 36, 2010.
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