2017年6月

みちびき2号打ち上げ成功と地図の位置の整合

 2017年6月1日に準天頂衛星システムの「みちびき2号機」の打ち上げが成功し、4機体制に向かって着々と準備が進んでいます。各報道では、準天頂衛星システムが“数cm単位の精密測位を実現する。” などと紹介されていますが、実際は、地図上に位置を数cmの正確さで再現するには、別途の考慮が必要になります。地球の地殻は絶えず移動しているので、その変動量を正確に把握しなければなりません。衛星測位がどんなに正確でも、地図の位置との整合を正確に行う手続きが必要になります。2017年3月に閣議決定された「第3期地理空間情報活用推進基本計画」(以下、第3期基本計画という。)の「第II部1.(1)②地理空間情報の整備・流通・利活用のための基準・ルール等の整備」には、”地殻変動が活発な地域において様々な方式の衛星測位情報と高精度な3次元の地理空間情報の相互位置を高い精度で整合させるための仕組み作りを推進する。”と定められ、その対応が要求されています。

1.地球の地殻変動の実際と測量法に定める位置

 

 図1は、世界の位置を統一的に決めるITRF(国際地球基準座標系)の最新版「ITRF2014(元期2010.0)」の観測点の地殻変動です。世界の約1000箇所の観測点の元期座標(X,Y,Z)と、地殻変動速度の推定値(VX,VY,VZ)が提供されていて、位置は時間の関数として扱われています。この地殻変動の大きさは、オーストラリア大陸では年間10cm近くになっており、同国で1994年に決められた位置は、現在、衛星測位の位置と1.5mもずれていて、修正が必要になっています。

(出典:URL http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/a/092700061/

 

図1 ITRF2014 構築に使われた世界の観測点の地殻変動モデル  (IAGWebsite: http://www.iag-aig.org/ ,2016年4月)

図1 ITRF2014 構築に使われた世界の観測点の地殻変動モデル
 (IAGWebsite: http://www.iag-aig.org/ ,2016年4月)

 

 図2は、日本列島の累積水平変動量を図示したものです。西日本・北海道は元期1997.0から2017.0までの21年間、東日本は元期2011.4から2017.0までの5.6年間の変動量になります。大きいところでは、沖縄地方で1m、また、2011年東北地方太平洋沖地震の震源地近傍でも余効変動により1mに達しています。つまり、測量法で定められた元期の位置と衛星測位の位置は、最大1m食い違うことになります。この地殻変動の影響を正確に扱わなければ、cm級の地上位置の正確さを保証できません。

 

図2 元期から2017.0までの累積水平地殻変動  国土地理院公開の地殻変動補正パラメータに基づき当社が図化

図2 元期から2017.0までの累積水平地殻変動
 国土地理院公開の地殻変動補正パラメータに基づき当社が図化

 

2.地殻変動の影響の除去:セミ・ダイナミック補正とセミ・ダイナミック リダクション

 

 異なった時期の位置は、地殻変動の影響で一致しません。そのため、基準日(元期)を設け、その元期の位置で統一します。ITRF2014の元期は2010.0で、図1に観測点の地殻変動が示されています。日本やニュージランドは、位置を元期の座標に戻して表示する「セミ・ダイナミック測地系」を採用しています。日本におけるセミ・ダイナミック測地系の導入は、2008年4月に閣議決定された第1期基本計画を受けて2010年に実現しました。国土地理院は、元期から観測年度に相当する今期までの「セミ・ダイナミック補正」の処理に必要な「地殻変動補正パラメータ」を公開しています。セミ・ダイナミック補正は、GNSS基線ベクトルのような相対測位に使われるもので、地殻変動による歪を補正するものです。図3に示すように、その年の1月1日までの地殻変動量がその年度を通じて使われます。年度末には15か月前の値が使われることになるため、その間の地殻変動分に相当する数cmの年度末誤差が生じる可能性があります。
 これから益々進化する精密単独測位(PPP:Precise Point Positioning)には、元期から観測日までの正確な地殻変動量の補正が必要です。当社は、数cmの正確な位置を保証する目的で、観測日の地殻変動を補正する単独測位のための「セミ・ダイナミック リダクション」を開発しました(図3参照)。この技術は、第3期基本計画に示す衛星測位と地図の正確な整合を実現させるためのツールとして使えるものです。

 

 

図3 地殻変動補正パラメータとセミ・ダイナミック リダクション

図3 地殻変動補正パラメータとセミ・ダイナミック リダクション

3.測量方法による地殻変動の影響の除去

 

 PPPでは、その時間における正確な地球上の位置が決められます。現在は、ネットワーク型RTKにより地球上の正確な位置が決められます。地籍調査作業規程準則第70条5は、筆界点上にアンテナを設置して、その点の座標を求める仕組みを定めています。当社の実験結果によれば、ネットワーク型RTKの座標観測の成果は、国土調査法施行令第15条に定められた別表四の市街地における精度基準を満たさないことがあり、市街地での測量には向いていません。

(出典:URL https://atmsp.aisantec.com/atmspark/modules/IA_34/index.php?id=1

 また、故障した筆界点の復元には、遠方の電子基準点が参照点として使われます。時間の経過による地殻変動の影響が正確に処理されなければ、正確な筆界の復元ができません。そのため法務省は、この方法による地積測量図の世界座標化を禁じています(『登記研究』701号、(株)テイハン、平成18年7月)。
 その代わり、法務省は、図4に示すように、上空視界の良好な場所における恒久的地物(不動産登記規則第77条第2項)を選んで、ネットワーク型RTKによる座標を決める土地家屋調査士会が定める方法(平成19年の土地家屋調査士会連合会長による「地積測量図作成におけるネットワーク型RTK-GPS測量について(通知)」)を非公式に認めています。
 この方法は、正確な復元のみならず、多くの恒久的地物上の座標観測の平均値を採用し、筆界点座標の正確さを高めることが出来ます。以上、進化する衛星測位を有効活用するため、現行の作業規程等の見直し及び単独測位用のセミ・ダイナミック リダクションのようなツールが必要になってきています。

 

正確な境界点の座標化手法の概念図

図4 正確な境界点の座標化手法の概念図

 

文責:アイサンテクノロジー株式会社 技術顧問 中根勝見

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