空間データの品質向上

第3回 交差の自動修正(3)

交差の修正


1.はじめに

大縮尺の一般図作成は、航空写真測量の写真を基にデジタル図化機で作成することが多い。図化機で作成したオブジェクトは、すべて線分で取得する場合と、線と面で取得する場合がある。しかし、最近の図化機では、データ作成の生産性を向上するため、オブジェクトを線または面で取得し複数の標準的なフォーマットで出力ができるようになっている。
図化機で作成したデータには、オブジェクト間の交差が残っているので、通常は編集機で編集するが、この編集段階での交差の修正作業を自動処理によって交差の解消することを目的としている。
自動修正は、次のプロセスを経て修正される。

 

(1) 交差抽出と抽出されたオブジェクトに対して、はみ出し幅が閾値以内にあるか判定し、以内であれば次のプロセスへ、閾値以上であれば、非修正として次のオブジェクトの交差抽出を行う。
(2) はみ出し幅が閾値以内の場合には、交差するオブジェクトAB間のはみ出し区間の修正方法を優先順位テーブルによって優先、同等、非修正の判定をする。
(3) 交差パターンを判別し、そのパターンによって決められた修正方法を実行する。
(4) 修正したオブジェクトが修正によって新たな交差が生じていないを品質検査する。新たな交差が生じている場合には交差パターンに戻り、パラメータ等を変更して修正する。新たな交差が生じていない場合には、(1)の次のオブジェクトの交差抽出に進む。

 

自動修正は、以上のプロセスで行うものとする。

 

2.交差抽出とはみ出し幅の閾値

通常、大縮尺の一般図作成のための航空写真測量の編集段階で、交差の編集作業は、背景図にオルソ画像等を重ねて編集作業を行ってはいない。これは、作業者が地形をある程度頭に入っていることもあるが、作業規程で地図情報レベル2500では双方のずれが1.75M以下のずれ場合には双方の中間点で結ぶことを規定している等、あえてオルソ画像等を重ねて作業を行う必要性を感じていないように思える。オペレータは長年の経験からあるべき現況を推測して修正しているものと思われる。このことは、修正のロジックをあるべき現況を推測して構築すれば、交差の自動化の可能性を窺わせるものである。
はみ出しが生ずる原因としては、描画の際に生ずる位置決めのあまさと(以下描画誤差という)、思い違い等が考えられる。筆者が調査した岐阜県の24市町村のDMデータ24図郭、587,633要素では、はみ出し幅(はみ出し幅の定義は第2回を参照)が50cmまでの交差エラーがエラー全体の90%を占めていることが分かった。この原因は、実世界の地物が密接している場合、描画の際に生ずる描画誤差や端点の挿入不足によってはみ出しが生じているものと考えられる。しかし、はみ出し幅が大きい場合には、複数の原因が存在し、しかも個々の交差の原因が特定できない。このような状況である特定ロジックで修正を行うと、その修正が必ずしも正しい修正とは限らず、形状の変形や位置正確度のオーバー等が生ずる原因ともなり、むしろ弊害が大きいと考えられる。今までの自動修正の論文を見るとこの点を着目されていないことが課題であった。
そこで、自動修正の対象は、このはみ出し幅が50cm程度の描画の際に生ずる描画誤差程度の修正を対象としてエラー全体の90%程度を修正することを目標とした。
交差判定は、通常の品質検査ツールの交差判定の機能を使って交差のオブジェクトを抽出する。通常の品質検査ツールは、オブジェクトAとオブジェクトBが交差しているか、否かを判定し、交差している時点でエラーと判定すれば良いが、自動修正はオブジェクトの全てのチェインのはみ出し区間を修正する必要から終点までのはみ出し区間を確かめる必要がある。
はみ出しは、空間属性が面と面、面と線の場合は面の領域判定によって、始点が領域内にあるか否かを判別できる。しかし、線と線の場合は領域判定ができない。そこで、始点がはみ出しているか否かを実際のデータで分析したところ、ほとんどのはみ出しは中間点または終点であることが分かった。従ってここでは一義的に、線と線の場合の双方のチェインの始点がはみ出していないとする。
そこで、自動修正を行う範囲を閾値として設定し、閾値以下のはみ出し幅の場合には修正を行い、範囲を超えた場合には修正を行わないこととした。

 

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図1 はみ出しと閾値の関係

 

図1は、チェインK,P,Qの始点が交差していないとした場合で、チェインPはチェインKとc1とc2で交点を持ち、チェインQはc3とc4でチェインKと交点を持っている。また、チェインK,P,Qのチェインの端点は番号の若い順番から昇順になっているものとする。また、閾値は、チェインKの等距離にある領域を示している。
チェインPは交点c1で交差し、p2,p3を経由して交点c2で突き出ているので、はみ出し区間はc1からc2となり、その区間にあるp2,p3が閾値の領域の内側にあるので修正の対象となる。
また、チェインQは交点c3で交差し、q2を経由して交点c4で交差している。チェインQは始点が交差していないので、はみ出し区間はc3からc4となり、その区間にあるq2は閾値の領域の外側にあるので修正の対象とならない。
さて、ここで一番心配なのは、線分と線分の交差の場合、一義的に始点は交差していないとしたが、そのことがどのような影響を与えるかについて吟味して見ることとする。
図2は線分と線分の交差状況を示したものである。
線分同士の交差は、始点が交差して“いる”とするか、“いない”とするかで交差区間は全く逆になってしまう。ところが、公共測量作業規程では、オブジェクトのチェインの方向(データをp1~p4またはp4~p1のいずれの順序で取得するか)も規定していないので交差区間が定まらない。
そこで、DMデータを中心にして、多くの交差の状況について調査した結果、交差はチェインの途中の端点で発生しているケースが圧倒的に多いことが分かったので、ここでは一義的に始点は交差していないとすることとした。
では、このように定義した場合のケースについて検討を加えることとする。

 

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図2 チェインの交差

 

図2は線分と線分の交差状況を示したものである。
チェインKとチェインPの始点p1が交差していない場合の求めるオブジェクトのチェインPは、p1,c1,p2,p3,c2またはp1,c1,k2,c2,p4を期待し、チェインPの始点p1が交差している場合には、c1,k2,c2または、c1,p2,p3,c2を期待するものと思われる。
現況がチェインKとチェインPの始点p1が交差していない場合には、p2とp3が閾値以下の範囲にあるので、期待した修正ができる。また、現況がチェインKとチェインPの始点p1が交差している場合には、p1とp4のいずれも閾値を超えているので修正を行わないので、誤った修正を防ぐことができる。
現況がチェインKとチェインQの始点q1が交差していない場合の求めるオブジェクトのチェインは、交点が1点なのでc3,q2,q3,q4期待し、チェインQの始点q1が交差している場合にも、c3,q2,q3,q4を期待するものと思われる。
ここでの修正は、交点が1点で、始点の次に交点がある場合と交点の次に終点がある場合にかぎり、始点q1を交点c3に移動、終点を交点に移動させる。このように処理することによって、端点が閾値を超えている場合には、修正を行わないので、誤った修正を防ぐことができる。
交差前の端点が複数ある場合には、始点が交差していないとして、交差後の端点がはみ出しているものとして処理する。

 

3.交差優先テーブル

図1のはみ出しと閾値の関係で、チェインKとチェインPのc1からc2の間を修正すれば良いことが分かったが、チェインKのc1,k2,c2間を修正すれば良いのか、チェインPのc1,p2,p3,c2の間を修正すれば良いのかわからない。そこで、チェインK、チェインPのいずれかを修正するかについては、次の考えに基づいて行う。
紙図の表記法を規定した国土基本図図式の図表第2に「双方が立体関係にある場合には、特定の場合を除き、下方の記号を間断して表示する」と表記を規定し、重なった場合の表示方法をA列とB列のマトリックスで例示している。また、準則では、図式の45条等に「交差した境界の下になる部分を間断する」としている。
表記法は、紙図からデジタル情報に代わっても、転移の条項に変化があるとしても、立体関係の表記法は変わっていないと判断できる。
そこで、仮に道路縁をAとし、建物をBとすると、両者が重なった場合に道路縁Aを優先して移動せず、建物Bを道路縁にはみ出さないように道路縁Aに沿って輪郭を修正することとする。この場合の両者の関係をAとBにおいてAが優先しているとする。
また、建物Aと建物Bが重なっている場合は、AとB双方の輪郭を修正する。これ場合の両者の関係をAとBにおいて同位とする。
そして、送電線のようにどのようなオブジェクトと重なっても、重なりを許す関係を非修正とする。
修正は、交差したオブジェクト間の修正するタイプすなわちAを修正する、Bを修正する、修正しない等のタイプを決めたテーブルによって、チェインKのはみ出し区間を修正するか、チェインPまたはQを修正するかを決定する。
このようにオブジェクト間の修正方法を決定するための交差優先テーブルを作成し、それに基づいて交差した場合のどちらのオブジェクトを修正するかを定義することとした。
図1に示す交差優先テーブルの作成は次の考えに基づいて作成している。

 

(1) 道路中心線は、2線の道路縁で示されるその中心を示す線で、道路縁を交差して道路中心線も交差していることは、前項で述べた閾値を大幅に超えているので、処理時間を節約するため、非修正としている。
(2) 横断歩道橋、地下横断歩道橋、石段同士等の図式で表現しているオブジェクトが交差している場合は、現況が異なる地物の場合と、本来1つの地物を分けて作成しているものか不明なので、ここでは非修正とした。将来的に取得方法(入力ポイント)と図式の関係が標準化された時点で修正することを検討する。
(3) 県市町村界、町字界は他のオブジェクトと交差を許しているので、非修正とした。

 

表1 交差優先テーブル

地物型名


(中)





(中)













































道路縁(中) 1
道路中心線(中) 1 1
記号道路 < × 1
建設中の道路 < × > 1
道路のトンネル > × > > 1
横断歩道橋 × × × × × ×
地下横断歩道 × × × × × × ×
石段 < × × × × × × ×
地下街・地下鉄等の出入口 < × × × × × × × ×
県市町村界 × × × × × × × × × 1
町字界 × × × × × × × × × × 1
軌道 < × < < < < < < < × × 1
鉄道橋 < × < < < < < < < × × × 1
建物 < × < < < < < < < × × < < 1

 

表の>は左のオブジェクトが優先、<は上のオブジェクトが優先、1は同順位、×は非修正を示している。
このようにオブジェクト間に交差があった場合、交差優先テーブルに基づき交差したどちらのオブジェクトのチェインを修正するかを定義している。

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