空間データの品質向上

第6回 交差の自動修正(6)

1.実証実験の考察

1.1.はみ出し幅50cm以上が90%を占めるはずでは?

第3回で50cm以下のはみ出し幅が全体の90%が占めていると報告しているが。しかし、今回の図化機からの取得データでは、50cm以下の比率が75.3%となっている。これは次の原因によるものである。


(1) 50cm以下のはみ出し幅が全体の90%を占めるデータは、計画機関に納品したデータであり、はみ出し幅の大きいものを修正していると考えられる。
(2) 今回のデータは、図化機で取得したデータので、はみ出し幅の修正を行っていないので、はみ出し幅の大きいものの数が多いものと思われる。

今後、このような、データを蓄積してゆけば、図化機で取得時のはみ出しと、はみ出し幅の分布状況がわかるようになる。そうすれば、取得方法の改善や、オペレータの教育方法等に活用できるのではないか。
筆者は、企業として例えば、10,000個の座標を入力した場合に、何個のエラー(この場合交差の要求水準以下のはみは出し幅が何個存在しているか)を管理し、目標値を掲げることが必要ではないかと言っている。このような数値を管理することによって、初めて品質管理も、コストダウンも可能になる。現状の水準を把握せずして、何も始まらないのではないか。
2例の実証実験結果、はみ出し幅が現地寸法で50cm囲以下のはみ出しは、94%以上の修正ができることが分かった。残る課題は次のものである。
① マルチパートと始点が領域内にある場合
② 線上にある場合
これらの機能を付け加えれば、ほぼ、100%の自動処理が行うえることがうかがえるまでになっている。この問題は、そう難しい問題ではない。
今後、より多くデータの実証を重ねることで、オペレータの起こしやすい未解決のはみ出しタイプを抽出し、機能強化を図りたいと考えている。(技術に終わりはなく、これで良いと思った瞬間から、その技術の進歩が止まってしまう。むしろ、これからが、自動修正の始まりと考えている。)


1.2.線と線の交差

線分と線分の交差の前提は、始点がはみ出していないことを前提としている。
図は線分Bが線分Aに対して優位にある場合の交差した例である。なお、図1の●は座標点を示し、a1、b1は始点を、矢印は方向を示している。


20121220_01

図1 修正される交差と修正されない交差


修正は、次の条件を満たす場合に行われる。
線分Bが線分Aに交差した場合に線分Bの最初の交点以降の座標が線分Aから等距離にある閾値の範囲内にある場合に修正が行われる。最初の交点以降の座標が閾値を1点でも超えた場合には修正は行われない。また、a’3からa3の長さ、a2からa’からa’4の長さが微小線分となる場合には、a’3とa’4を1つの点とする等の補正処理を行う。
図3のパターンは、a1始点である。a3、a4、更に座標列がa5、a6、と続いて閾値外の座標列が続けばa1、a2ははみ出している可能性が高くなるので、誤修正を防ぐために自動修正を行わないようにしている。
今回の実証実験における閾値は、レベル2500のデータであったので、50cmとした。しかし、閾値はレベルによって設定すべきで、取得地物の最小形状の1/2以下、図化機で取得する際の表示したスケール等によって値を決める必要があると考えている。



1.3.地物間の交差は優先順位が一義的ではない

地物と地物が交差した場合、優先順位の低い地物を高い地物の外周に外形に合わせる方法で修正を行うようにしている。しかし、現実の世界には例外がつきものである。例えば、道路でも、高速道路が2階建で、高速道路に沿って地表面にも道路がある場合がある。読者から、このような場合を考えていないと言われそうである。このような、ケースの場合、取得段階で、公共測量にとらわれず、地物名を新しく起こして、最上位階、次の階、というようにすれば良いと考えている。例えば、道路縁(最上)、道路縁(中位)道路縁(地面)というように優先順位を付ければ問題を避けることができる。そして、品質検査の後に、地物をマージすれば良いのではないか。公共測量作業規程の準則も生産の途中段階に規定のない地物の分離をしてはいけないとは言っていない。要はどのように、品質向上とコストダウンをするかが重要であると考えている。



2.生産性

自動修正ツールは、空間データの生産性を向上させるために作成したものである。
筆者が以前に岐阜県の統合GIS技術部会の10社に、写真測量における全体の工数に占める数値編集作業工数の割合を調査した。その結果は、平均では30%で最大で50%、最少で15%という回答であった。



2.1.処理時間

今回の実証では1図郭あたりの自動処理の処理時間は、42分程度かかっている。今回は、機能を満たすことを何よりも優先して開発してきたので処理時間を後回しにしている。しかし、処理時間は生産性の重要な要因であり、今後も処理時間の短縮に努め、半分以下にしたいと考えている。その実現性は容易であると考えている。



2.2.自動修正による効率

今回の実証実験では、全体のデータに対する交差の平均改善率は表1に示すとおりである。


表1 交差の自動修正前と修正後の要素数の変化


項目 種類 修正前 修正後

 

改善率

 

平均改善率

要素総数 89,617 89,617
はみ出し幅0.01m以上の要素数 面交差 881 213 75.8% 73.6%
線交差 182 68 62.6%
はみ出し幅0.5m以上の要素数 面交差 201 201 0.0% 0%
線交差 61 61 0.0%
はみ出し0.5m以下の要素数 面交差 668 12 98.2% 97.6%
線交差 121 7 94.2%

自動修正によって、はみ出し幅の修正は、データ全体の73.6%改善される。従って。工数全体の削減は0.736×0.3(平均数値編集工数)=0.2208となり、全体の22.08%工数の削減が可能となる。すなわち原価率が22.8%低減させることができる可能性を示している。
一方、はみ出し幅が0.5m以上の要因を分析して、自動処理以外の方法でも原因を調査し対策を行うことによって、工数全体の改善を図ることも重要であると考えている。



3.おわりに

筆者がこの自動修正を考え付いたのは、今から足掛け10年前の統合型GISを始めた時である。世の中にGISを普及させるには、コストを削減させなければならない、そのためにどうすれば良いか。統合型GISによって空間データの重複投資は避けられるが、更に、コストダウンを図らなければ普及できないと考えていた。また、当時、空間データの品質について大いに疑問を感じたものである。また、生産の現場を見ると、生産機器は進化しているが、データの編集作業はオペレータの感と経験に頼っているのが実情であった。
公共測量作業規程や、その後の地理情報標準は、交差をしてはならないと規定している。これは、従来の紙図と比較して、GISデータは、恐ろしいほどの要求品質にも係らず、測量企業の技術者は平然としている態度には理解しがたいものがあった。当時、筆者が品質検査ツールを開発して、結果を出してみると、はみ出し幅が75cmでも合格するのに何回ものやり取りが必要であった。この費用たるや莫大なものとなることが想像される。
そこで、自動修正ツール作成に当たり、品質検査ツールで交差している実態と原因を調査した。この交差の原因が取得方法や、オペレータの注意によって避けられるものなのか、避けられない問題なのか、いくつかの企業を回って意見を伺って、その結果を基に交差パターンの分類を行った。そして、ようやく自動修正の修正方法を決めることができた。

空間データの生産が製造業であるかぎり、データ生産の生産性の向上は、経営的にも最重要課題であるはずである。また、統合型GISが始まる頃から、データ生産を海外に委託する企業が増えて、測量企業が商社化する危険性を感じられた。このままでは、若い人々に魅力のない業種になってしまう。
そこで、測量企業で自動化は不可能といわれる処理技術を提示することによって、後に続く若い人々が、生産現場における生産技術を高め、コストの低減と品質の向上にチャレンジしていただくために、この自動修正ツールを提示するものである。この程度のツールなら私にもできるという、若い人たちのチャレンジに期待を込めて発表しているつもりである。生産現場における無駄の撲滅と省力化に役に立てば幸いである。

今回で自動修正を終わらせていただきます。長い間お付き合いいただき感謝いたします。

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on LinkedInEmail this to someonePrint this page

目次へ戻る