空間データの品質

第5回 第三者機関の測量成果検定と課題

計画機関が空間データを公共測量の成果とするために、国土地理院に公共測量実施計画書を提出すると、作業規程15条により検定機関で測量成果の検定を受け、測量成果提出の際には証明書を提出することを助言されます。このことは、測量成果の承認が第三者機関の品質保証が前提となっているようです。
筆者は、GISのコンサルタントとして計画機関の受入検査等をしていますが、作業機関から、“どのような検査プログラムを使っていますか。そのプログラムを提供してくれませんか。” という言葉を良く耳にします。これはひょっとすると、作業機関が検査するプログラムによって、エラーの結果が異なることを知っているためではないかと予想しています。

ものを計るということでは、計量法に規定されており、公共測量作業規程の準則においても、測量機器の検定が定められています。しかし、空間データは、測量機器の検定も必要ですが、精度を保証する測量機器で測量したとしても、その後の編集作業で図式化、接合等を行うことで、端点の移動や追加が発生しています。従って、測量機器の検定と同様に空間データの品質検査も重要であると思っています。そして、どのような品質検査が行われているのか、その実態を調査する必要があると感じています。 そこで、これまで品質検査の長い歴史と経験を持っておられる第三者機関の皆様に検査方法についてヒヤリングさせていただきましたので、その結果を報告さていただきます。


第三者機関の検査方法

調査は、空間データの測量成果の検定を行っている第三者機関といわれる3団体のご協力を得てDMデータの品質検査の現状をヒャリングさせていただきました。


表1 第三者機関の検査内容

分類大項目小項目A機関B機関C機関
要求書類 検査のために要求する
提出書類
写真図
現地調査資料
属性等資料
仕様書類
製品仕様書等の提出率 0% 1% 0%
フォーマット 検査対応フォーマット DM DM,XML
SHAPE
DM
検査項目 検査内容 完全性
論理一貫性
位置正確度 × 基準点のみ 精度管理表
の確認
主題正確度
検査結果 検査結果の書類 検定証明書
記録書
別紙結果


国土地理院は、平成17年に地図情報レベル2500製品仕様書(案)を発表いますが、DMデータに限って言えば、この仕様に基づいて作成されたデー タはほとんどなく、適合水準の明示がないため、DMデータの検定は、従来の方法で行われていることが分かりました。製品仕様書の作成を促進させる何らかの 施策必要ではないかと考えます。

検査データのフォーマットは、一部の機関を除いてはDMフォーマットのみを対象としています。

完全性の検査方法

完全性の検査は、調査した3機関とも行っていると回答しています。


表2 完全性の検査内容

分類大項目小項目A機関B機関C機関
原典資料 写真図
現地調査資料
属性資料
検査方法 検査手法 目視 目視 目視
検査数量 全数 全数 全数
検査結果 内容 検査総数の表示 × × ×
検査数の表示 × × ×
エラー数の表示
適合水準の表示
判定結果の表示
エラーの表示


表中の△は表示のあるもの、ないものもあることを意味しています。

また、完全性の検査方法は写真図、現地調査と空間データを比較して漏れと過剰を検査しているとの回答でした。

検査の結果、疑問箇所又はエラー箇所について作業機関に問合せ、その回答で合否の判定を行っています。しかし、疑問箇所又はエラー箇所を抽出しているが、 総数、検査数の管理が不十分のため、誤率が算出できていません。疑問箇所又はエラー箇所について作業機関に問合せによって、判断材料にしている点について は、検査機関の独立性からいって課題があるように思います。そして、計画機関の仕様書には、適合水準が明記されていないことが多いので、完全性の合否判定 何を根拠としているか曖昧なものがあります。全数検査ならば、次に述べる論理検査の総数を参照して、検査数と一致しているかを確認する必要がありますし、 抜取検査であれば、再現性の問題から、抜き取った地物とその数を明らかにする必要があると考えています。

論理一貫性の検査方法

論理一貫性の検査は、調査した3機関とも行っていると回答しています。


表3 論理一貫性の検査方法

分類大項目小項目A機関B機関C機関
原典資料 写真図
現地調査資料
属性資料
検査方法 検査手法 プログラム プログラム プログラム
検査数量 全数 全数 全数
検査項目 書式一貫性
概念一貫性
定義域一貫性
位相一貫性 交差
交差の閾値設定 × × ×
アンダーシュート ×
微小線分 × ×
自己交差
トゲ × ×
鍵廻り × × ×
検査結果 内容 検査総数の表示
検査数の表示
エラー数の表示
適合水準の表示
判定結果の表示
エラー箇所の表示


検査に対応しているフォーマットの調査では、2機関がDMフォーマットのみ対応していると回答しています。しかし、GISが普及している昨今、 GISデータを作成したい計画機関にとって、GISデータとDMやXMLデータを同時に作成することは二重投資となります。GISデータもサポートして欲 しいと思います。

位相一貫性の交差、アンダーシュート、微少線分、自己交差、トゲ、鍵曲りの検査では、検査機関によって検査に差があります。これでは品質にむらが出るのではないかと思います。

位相一貫性のエラーの種類と定義については、定まったものがありません。エラーの種類と定義を定めて、どの機関に出しても同じ結果となるようにする必要があります。

また、DMデータは、紙図を数値データで作図するためのデータという歴史をたどっているためか、交差における閾値という考え方を3機関とも取っていませ ん。DMは、地物が重なった場合に転移させています。従って、交差はしないという考えになっています。しかし、GISデータは、転移をすることによって幾 つかの問題を発生させるので、転移させないデータも数多くあります。そこで、DMデーが基盤地図情報の原本となっていることから、転移を行わず閾値を設定 する考え方を導入した方が良いと思いますが、皆様はいかがお考えでしょうか。閾値がない場合の問題は、前回の“計画機関の品質要求”で述べましたのでそち らを参照してください。

位置正確度の検査方法

位置正確の検査は、機関によって検査方法が分かれています。


表4 位置正確度の検査方法

目視
分類大項目小項目A機関B機関C機関
検査方法 検査の有無 基準点のみ 成果簿の点検
検査手法 目視
検査数量 全数 全数
検査結果 内容 検査総数の表示 × ×
検査数の表示
エラー数の表示
適合水準の表示
判定結果の表示
エラー箇所の表示


筆者は、基準点の点検や成果簿の点検では、位置正確度の検査を行ったとは言えないと思います。極言すれば、民間地図と公共測量に基づいて作成した空 間データの違いは、位置正確度が保たれている点にあると思うのですが、そのためのも位置正確度の検査をぜひ実施して欲しいものです。少なくとも、GPSに よる現地測量を行うとか、撮影画像を図化機によって位置正確度を検査する等の方法が必要ではないでしょうか。

主題正確度の検査方法

主題正確度の検査は、調査した3機関とも注記や資料から検査していると回答しています。


表5 主題正確度の検査方法

分類大項目小項目A機関B機関C機関
原典資料 注記
資料
検査方法 検査手法 目視 目視 目視
検査数量 全数 全数 全数
検査結果 内容 検査総数の表示 × × ×
検査数の表示
エラー数の表示
適合水準の表示
判定結果の表示
エラー箇所の表示


主題正確度の検査では完全性と同様に、検査の結果、疑問箇所又はエラー箇所について作業機関に問合せ、その回答で合否の判定を行っています。しか し、疑問箇所又はエラー箇所の抽出が中心であるため総数、検査数の管理が不十分のため、誤率が算出できません。また、計画機関の仕様書には、適合水準が明 記されていないことが多いので、主題正確度の評価が正しいとは言い切れません。

全数検査ならば、次に述べる論理検査から総数を参照して、検査数と一致しているかを確認する必要がありますし、抜取検査であれば、再現性の問題から、抜き取った地物を明らかにすることが必要ではないでしょうか。

おわりに

調査の結果、DMデータは、紙図を数値データによって作成するという概念のため、従来通りの仕様によって作成し、検査機関も従来通りの方法で検査している実態があります。

従って、地図情報レベル2500製品仕様書等のガイドラインが示されていますが、地方自治体ではあまり製品仕様書が作成されていないか、作成しても、不完 全なものとなっているのが実態のようです。DMデータの作成も、品質検査のJPGISの仕様に基づいて整備することの認知と合意形成が早急の課題であると 思います。
また、第三者機関のDMデータの検定については、適合水準が不明確とはいえ、品質結果の再現性や位置正確度の不検査、位相一貫性のエラータイプの不統一、検査手法のばらつき等が見られ等課題も多いと思います。

位相一貫性のエラーについては、どのようなものをエラーとするかのガイドライがないため、検査機関によって対象とするエラーが異なっています。このような 課題を解決するためには、位相一貫性のエラーの種類と定義を明確にして、どの第三者機関でも同じ結果が出るようにする必要性があると思います。

今回の調査では、作業機関の意見として“第三者機関のDMデータの検査は、論理一貫性だけしか行っていない。”ということ意見の隔たりを解決することはで きませんでした。しかし、このような意見の隔たりがあるということは、第三者機関が発行している証明書、記録書、別紙結果の表記の方法がまずいのではない かと考えます。第三者機関は、このような誤解をなくすためにも、証明書の記述内容を再検討する必要があると思います。

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