連載

第6回 地球基準座標系における基準点位置

6.基準点位置の変動

 地球基準座標系は、地球とその周辺にある事象を調べ記述するための参照(レファレンス)となるものです。実現された座標系(フレーム)では基準点(宇宙測地観測局)の位置が参照点となります。しかし、基準点は地球表面(地殻)上にあり、地殻は様々な原因で常に動いています。動きの大きさや速さ、周期も原因によって違います。従って基準系の実現としての参照点の位置は、どのようなモデルを使って導き出されたのかを明確にしておく必要があります。特に、基準点の瞬間的な位置は、基準系の参照点としての位置とは異なります。参照点としての位置は、変動の影響を平均したり取り除いたりした標準的な位置となっているからです。

 今回は、基準点位置に変動を与える主な原因とその取扱い(モデリング)について、IERSの標準的方法に従ってまとめました(参考文献1)。

6.1 地球潮汐

  地球には第4回の歳差・章動の項で述べたように他の天体(月、太陽、惑星)からの潮汐力が働いています。そのため海面が1日2回上下するのですが、実は固体地球も同じように変形するのです。それを地球(固体)潮汐と呼びます(図1)。潮汐力には時間に依存しない成分と周期的な成分(半日、1日、それ以上の長周期)とがあり、地殻はそれに応じて時間に依存しない永年変形と周期的な変形を受けています。変形の程度は約30cmですから、参照点の位置としてどの値を取ればよいかが問題となります。周期的変形を取り除いた地殻を平均地殻、さらに永年変形も取り除いた地殻を潮汐フリー地殻といいます。潮汐フリー地殻は、月も太陽もないと仮定した時の地球の形です。現在、宇宙測地データの解析では慣用的にすべての潮汐の影響を除いたモデルで計算しており、ITRFにおける基準点の参照位置は潮汐フリー地殻における位置となっています。もし、平均地殻などの違うモデルを採用したときは、基準点の参照位置がすべてずれることになりますので注意が必要です。

1

図1.天体からの潮汐力。地球各点における天体からの力(黒矢印)から重心で の力を引くと、重心に相対的な力(赤矢印):潮汐力が得られる。

6.2 地球重心の変動

 地球基準系の原点は、平均化された地球重心の位置です。地球重心の位置も様々な周期で動きますが、ITRFの原点位置はSLRのデータを時間の一次関数としてモデル化しています。現時点での瞬間的な重心からの位置が必要な場合(例えば、衛星軌道の精密決定等)は、以下の式から計算されます(図2)。

キャプチャ2

ここで、Xは瞬間的な重心からの位置、 キャプチャ3はITRFでの参照位置、 キャプチャ4は、ITRFにおける重心の変動で、SLRデータの解析から導かれた周期項です。

 

5

図2.瞬間的な重心Gから基準点P への位置ベクトルX 。 OはITRFの原点。

 

ご存知のように地球表面は多くのプレートに分かれ、各プレートはほぼ一定の速度で動いています。ITRFなどのダイナミックな座標系では、元期における基準点の速度が与えられていますので、現在の位置が計算できます。

 大きな地震後の余効変動(PSD)は時間の一次関数では表せないので、イベントごとにモデルを作って対応する必要があります。最新のITRF2014では、PSDモデルを取り入れています(図3)。

6

図3.2011年東北地方太平洋沖地震前後のつくば局の座標変化(左:GPS、右:VLBI)。 青は観測値、赤がPSDモデルに当てはめたもの。(参考文献2)

6.4 海洋潮汐荷重

 海洋潮汐により海水の質量分布が変わり、地殻変動を引き起こす現象です。10cmに達する場合もあります。海洋潮汐はローカルな地形に左右されるのでグローバルモデルではなく、メッシュに分けてモデリングされています。

6.5 その他

 大気荷重、遠心力の摂動、後氷期回復、地下水位の変動などの影響によっても位置の変動が起こります。mm~cmレベルの変動ですが、精密なモデル化が可能なものと、まだよくモデル化されていない変動とがあります。また、観測機器内の参照点も動きます(GNSSアンテナの位相中心変動やVLBIアンテナの熱膨張など)。

地球基準座標系を実現する基準点位置は、潮汐フリーの地殻上でプレート運動をモデル化した速度を持つ時間の関数として与えられています。これが標準の参照位置ですが、それらの基準点を既知として(今、この瞬間の)未知点の座標を正確に決めるには、基準点も瞬間的な位置が必要です。それには上に述べたような、正確にモデル化されている潮汐による変位、非潮汐だがモデル化されている変位、実験的に補正可能な変位、を標準位置に加えることになります。正確にモデル化されていないものは計算には含めないのが普通です。逆に、すでに知られている影響を取り去った残りの位置の変動データから新たな測地学的なシグナルが見つかることもあります。

 

略語集

IERS International Earth Rotation and Reference Systems Service 国際地球回転・基準系事業
PSD Post Seismic Deformation 地震後の余効変動
SLR Satellite Laser Ranging  衛星レーザー測距
VLBI Very Long Baseline Interferometry  超長基線電波干渉計

 

参考文献

  1. Petit, G. and Luzum, B.(eds.), IERS Conventions (2010), IERS Technical Note; No. 36, 2010.
  2. Altamimi, Z., P. Rebischung, L. Metivier, and C. Xavier (2016), ITRF2014: A new release of the International Terrestrial Reference Frame modeling nonlinear station motions, Geophys. Res. Solid Earth, 121, 6109–6131, doi:10.1002/2016JB013098.

 

Share on FacebookTweet about this on TwitterShare on LinkedInEmail this to someonePrint this page

目次へ戻る