空間データの品質
第1回 加除訂正していない座標が移動している
2010年07月29日
空間データの更新作業を行っている作業機関の皆さんで、論理一貫性の位相一貫性の交差等の品質検査を社内でしっかり行ったのに、計画機関から交差の重なりの品質が守られていないと、クレームが来て修正したという経験をおもちでありませんか。このような経験をお持ちの技術者は、少なからず居られるようです。
筆者の経験したところでは、新規作成データの品質検査の交差の結果が品質要求に満たないので、誤差箇所を提示して作業機関に修正するように指示しました。ところが、修正されたデータを見ると、今度は別の箇所に誤差が見つかってしまい、怒り心頭に達したことがあります。
そこで今回は、このような、更新データの社内検査を行って交差の品質要求に適合するデータであるにもかかわらず、計画機関や計画機関のシステムベンダーからクレームが来る原因について議論して見たいと思います。
事例:座標が移動している!
更新データは、経年変化による現況の変化を空間データに対応させるため、元データに加除訂正を行ったものを指します。したがって、作業機関も計画機 関も現況の変化のない地物は、座標が変化していないものと信じています。ところが、筆者は、ある自治体の更新データの品質検査を行っていて、加除訂正して いないはずの地物の座標が移動していることに遭遇してしまいました。そこで、この原因と実態を把握するため調査しました。
(1)更新データ作成プロセス
更新データを作成するプロセスは次のようになっています。
このように、加除訂正、品質検査、指定フォーマットへの変換等、全ての作業は、編集機で行われています。筆者の調査では、品質検査を出力した更新データで行わずに、図で示すように編集機内のデータで行っているケースが圧倒的に多数を占めています。
(2)加除訂正していない地物の移動量
A市の資産税の更新地番図の品質検査を行いました。品質検査の前に、加除訂正(削除地物、追加地物、訂正地物に分類)した地物を抽出する差分抽出プ ログラム(このプログラムについては第3回目に述べる予定)を利用して地物数を抽出しました。その結果、削除地物数、追加地物数は、筆者の検査と作業機関 の社内検査の結果が同じでしたが、訂正地物数で作業機関の地物数が247筆多いことが分かりました。そして、この247筆を作業機関に確認してもらったと ころ、訂正していないことが分かりました。そこで、この247筆について調査しました。
差分抽出プログラムは、元データと更新データの同一地物を比較して、座標が10mm以上移動している場合に異動したと判定します(但し、自由に設定でき る)。そこで、形状を修正していない247筆を構成する座標列2491点がどのように変化しているかについて、元データと更新データの座標を比較しました。
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分析の結果、X値の最小設定単位の±1以内にある座標数は2,289点(91.9%)で、X値の移動量10mm以上の座標が165点(6.6%)で した。また、X値の最大の移動量は、−88mmとなっています。(なお、Y値についても同様に移動していましたがここでは省略します。)
ちなみに、このデータ総数は242,560で、削除、追加、訂正の合計の更新数は17,842です。
本来、修正していないデータは、完全一致を当然のことと考えますが、最小設定単位の±1以内を許せる限界と考えると、8.1%が移動していることに なります。そして、6.6%が論理一貫性の位相一貫性の交差の閾値に影響のある10mm以上が6.6%もあるということが分かりました。
この結果は、次の点で問題があります。
- 今後、更新を2,3,4,5回と繰り返していくと座標は、どのように変化していくのか分からない。根本的な問題として、加除訂正をしていない地物の移動は、原本保証ができない。
- 10mm以上の移動は、地理院の国土基盤図のように最近の交差誤差の閾値を10mmとする例があり場合によって新たな交差誤差を発生する可能性がある。
以上のことから、品質検査は、次のプロセスで行うべきであると考えます。
- 品質検査を上記の更新データ作成プロセスのように行うと、変換の際の誤差を見出すことができないので、加除訂正をしていない地物の出力した更新データと元データの同一地物が完全一致しているかを検査する。
- 完全一致を確かめた後に、出力した更新データで品質検査を行う。
このようにすれば、元データと、納品物である出力した更新データの加除訂正していないデータの完全一致が保証できることができます。
では、あなたの会社の編集機は大丈夫?
筆者は、編集機のプログラムの中身を知る立場にないので、どの部分で、誤差が生じているかを知る立場にありませんので、発生原因を特定できません。しかし、作業機関の皆様は次の検証をすることによって、発生源を特定できると思います。
そこで、あなたの会社が使用している編集機で次のような検証を行ってください。
- 編集機が持っている固有のフォーマットと異なる元データを編集機に読み込む。
- 特定の地物のみを加除訂正する。(この地物をしっかり管理しておいてください)
- 作業が終わったら、指定のフォーマットに変換して更新データを作成する。
- 編集機に読み込まれた編集機固有のフォーマットのDISK上の加除訂正していないデータと、対応する元データの同一地物の座標を比較する。
- 編集機に読み込まれた編集機固有のフォーマットのDISK上の加除訂正していないデータと、対応する出力した更新データの同一地物の座標を比較する。
このことによって、元データを編集機に取り込み・変換の際に発生しているのか、それとも、更新物のフォーマットに変換する際に発生しているか、あるいは両方が原因なのかが分かります。
どう考えればよいか!
これまで、デジタル情報はデータの移し替え等によって情報は変化しない、減衰しないことが前提となっていると考えます。したがって、JPGISでも 全くこの問題は取り上げられていません。また、作業機関の現場の技術者の皆さんにとっても、座標計算は倍長計算で行っているので、移動するはずかないとお 考えではないでしょうか。
一部の識者の中には、座標の移動は位置正確度の問題であって、地図情報レベル2,500ならば、1.75m以内であれば問題がないと発言される方もいらっ しゃいます。しかし、筆者は、デジタル情報をいかなる装置に読み込んでも有効桁数の範囲で全く同じ情報が得られることが前提であって、品質要求以下の変化 なので、減衰しても良いという考え方には、同意できません。
そして、最近、論理一貫性の位相一貫性の交差の閾値を10mmとする仕様書に明記されると、今まで見過ごされていた座標の移動が交差誤差の原因として上げ られるようになってきました。このため、一部の自治体で加除訂正をしていない地物の座標は、元データと同じ座標であることを保証するように特記仕様書に明 記しているところもあります。
したがって、1回の更新で、最小設定単位以上の座標値が変わることもあるという事実を深刻に受け止め、生産機器の点検と対策を行う必要があると考えています。
品質の高い空間データを提供する作業機関及び、庁内に表示された品質を配信する責任を持つ計画機関の皆様にとって、この課題は重要と考えますが、いかがお考えでしょうか。