連載
第4回 第1項 地籍後進国-その原因
2000年09月15日
「地籍後進国日本」について、東大の村井先生の講演を引用して、前回述べました。地籍測量は太閤検地以来の事業といわれながら、半世紀を経過した平成11年度末における進捗率は、全国の調査対象面積の43%です。そのうち、都市部については17%程度で、都市部の遅れが目立ちます。
「土地所有者の権利意識の向上」にその遅れの原因を求める論調がよく見うけられます(例えば、日本土地家屋調査士会連合会、調査・測量実施要領II、2頁)。確かに、地籍測量でいう一筆地調査(E工程)における境界の確定は、所有者・所在・地番・地目などの確定を伴って大変な仕事ですし、事業の担当者にすれば、その遅れを「土地所有者の権利意識の向上」に求めたくなる気持ちは理解できます。しかし、地籍測量などの本来の目的として、「土地所有者の権利の確定」がその一つにあげられます。その目的からすれば、当事者の苛立ちは、その事業目的と本質的に矛盾を持ったものとも言えなくもありません。何れにしても国民の意識向上と共に、事業の進捗率が目的化され「国民」を忘れてはならない事を、国民の一人として願うばかりです。
全国3252市町村の地籍調査の実施状況(平成11年度現在)
国土庁パンフレットより
更に言えば地籍測量の遅れの本質的な要因は、「国民の権利意識」にあるのではなく、国の政策だったとも言えます。
1兆円規模の海峡横断道路は、四国に3本と東京湾に1本、計4本です。これまでに要した地籍測量経費は、この橋の建設費1本分にすぎません。計画当時の経済情勢やその背景から来る価値観が、大幅に変貌した現在とは言え、東京湾横断道路の交通量は予想の35%程度で¥100の収入を得るのに、現在¥316も経費がかかる大赤字道路である事も事実です。ITにおける情報資源として、地籍データが重要な役割を果たすことを、我々業界人が広く提言して行く事が望まれます。