座標系講座 生活編

第1回 その2 – 測量法に基づく測量の基準

3. 日本測地系2000(JGD2000)の日本経緯度原点の測地原子

測量法の改正(平成13年6月、法53)により、第11条の測量の基準は、次に示す世界測地系の定義を定めました。

第十一条 基本測量及び公共測量は、次に掲げる測量の基準に従って行わなければならない。

 

位置は、地理学的経緯度及び平均海面からの高さで表示する。ただし、場合により、直角座標及び平均海面からの高さ、極座標及び平均海面からの高さ又は地心直交座標で表示することができる。
距離及び面積は、第三項に規定する回転惰円体の表面上の値で表示する。
測量の原点は、日本経緯度原点及び日本水準原点とする。ただし、離島の測量その他特別の事情がある場合において、国土地理院の長の承認を得たときは、この限りでない。
前号の日本経緯度原点及び日本水準原点の地点及び原点数値は、政令で定める。
2 前項第一号の地理学的経緯度は、世界測地系に従って測定しなければならない。
3 前項の「世界測地系」とは、地球を次に掲げる要件を満たす扁平な回転楕円体であると想定して行う地理学的経緯度の測定に関する測量の基準をいう。
その長半径及び扁平率が、地理学的経緯度の測定に関する国際的な決定に基づき政令で定める値であるものであること。
その中心が、地球の重心と一致するものであること。
その短軸が、地球の自転軸と一致するものであること。

 

 

上記の定義に基づいて同施行令は、次に示す日本経緯度原点の緯度、経度及び原点方位角(第2条第1項)並びに楕円体要素(第3条)の測地原子を定め、更に、日本水準原点の標高である鉛直原子(第2条第2項)を定めています。

(日本経緯度原点及び日本水準原点)

第2条 法第11条第1項第4号に規定する日本経緯度原点の地点及び原点数値は、次のとおりとする。
地点 東京都港区麻布台二丁目18番1地内日本経緯度原点金属標の十字の交点
原点数値 次に掲げる値
経度 東経139度44分28秒8869
緯度 北緯35度39分29秒1572
原点方位角 32度20分46秒209(前号の地点において真北を基準として右回りに測定した茨城県つくば市北郷1番地内つくば超長基線電波干渉計観測点金属標の十字の交点の方位角)
2 法第11条第1項第4号に規定する日本水準原点の地点及び原点数値は、次のとおりとする。
地点 東京都千代田区永田町一丁目1番2地内水準点標石の水晶板の零分画線の中点
原点数値 東京湾平均海面上24.3900メートル
(長半径及び扁平率)
第3条 法第11条第3項第1号に規定する長半径及び扁平率の政令で定める値は、次のとおりとする。
長半径 6378137メートル
扁平率 298.257222101分の1

 

上記の日本経緯度原点の緯度、経度及び原点方位角は、ITRF94の観測点である鹿島VLBI観測点の位置(元期1997.0)を基に電子基準点網を経由して決定されたものです。ここでは、三角測量時代と同様に、原点方位角が規定されていますが、楕円体高は規定されていません。衛星測位の測量の出発点では、原点方位角は不要ですが、緯度及び経度と共に楕円体高が必要なものです。ただし、測量法第11条に定められた地心直交座標系の原点座標(X,Y,Z)は、平成14年国土交通省告示第185号により定められていて、楕円体高の算出が可能です。

電子基準点網の原点に相当する鹿島VLBI点は、ITRF94に結合されているので、電子基準点の楕円体高は、全て決定することができます。

 

4. 日本測地系から世界測地系への座標変換

日本測地系と世界測地系の位置のずれは、図3に示されているように400m余りです。従いまして、日本測地系の座標で作られた地図等は、世界測地系の座標へ変換しなければ、衛星測位との整合がとれません。そのため、国土地理院は、日本測地系から世界測地系への座標変換プログラム「TKY2JGD(ティーケイワイツージェイジーディ):Tokyo to JGD」を開発しました(参考文献2. 飛田,2002)。座標変換パラメータは、表1に示した一等から三等までの三角点約3.8万点から島部を除いた3.7万点を使いました。これらの 3.7万点の新旧座標差から約1km×1km(経度方向45″×緯度方向30″)の格子点上の座標差をクリギング法により内挿して求めました。これは、「TKY2JGD座標変換パラメータ」と呼ばれているものです。

 

 

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図7  TKY2JGD 座標変換パラメータ

格子点上の矢印が座標変換パラメータを表す。

P点の座標は周囲4格子点のパラメータからバイリニア法により内挿する。

 

 

図8は、世界測地系へのTKY2JGD座標変換パラメータを使って算出した最大剪断歪図で、座標変換誤差を推定したものです。この最大剪断歪は、測量の角度誤差に相当し、60ppmを超える地域は、1級基準点測量の誤差の許容範囲を超えることを示しています。伊豆半島に見られる大きな歪は、主として火山活動に伴うものです。箱根火山の影響もみられます。東京都―神奈川県境の大きな歪は、神奈川県の網平均計算時期(1992年)と東京都の網平均時期(1993年)の違いによって生じた座標の不整合(約40cm)の結果です。房総半島の付け根のばらついた歪は、1923年関東地震の改測域と改算域の境界における座標の不整合です。この座標変換に伴う座標変換誤差の最大は、1m程度と推定できます。

 

 

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図8 関東南部のTKY2JGD座標変換パラメータによる座標変換誤差(最大剪断歪)

国土地理院公開の座標変換パラメータを利用してアイサンテクノロジー社が図化

 

 

日本測地系時代に作成された地籍調査による地籍図は、TKY2JGDにより座標変換され世界測地系地図とされます。その他の地図例えばゼンリン地図は、日本測地系に基づいて作成されていますから、TKY2JGDにより座標変換が行われているものと推定できます。従いまして、地図作成誤差の他座標変換誤差も含まれ、衛星測位と地図のずれになっています。

 

5. セミ・ダイナミック測地系の導入

日本列島は、4つのプレートが交叉する地域で複雑な地殻変動の場にあります。日本測地系時代は、地殻変動の影響を考慮しない「スタティック測地系」でした。衛星測位による位置の高精度化に伴い、地殻変動の影響を無視することができなくなりました。ニュージーランドは、2000年からセミ・ダイナミック測地系を導入していましたが、日本は2010年からセミ・ダイナミックの導入を決めました。セミ・ダイナミック測地系は、異なった観測時期の成果を元期の位置で統一的に表示するもので、日本測地系2000では元期1997.0を採用しました。

 

5.1  セミ・ダイナミック補正

セミ・ダイナミック補正は、相対測位であるGNSSスタティック測位における地殻変動の歪を基線ベクトルに補正するものです。従いまして、地殻変動の歪の無い平行移動の地殻変動地域では、セミ・ダイナミック補正は零になります。

 

 

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図9 日本列島の累積地殻変動量

国土地理院公開の地殻変動補正パラメータを利用してアイサンテクノロジー社が図化

 

 

国土地理院は、セミ・ダイナミック補正実現のため、毎年の年度初めの4月1日に、地殻変動補正パラメータを公開します。全国に配置された約1,300点の電子基準点の地殻変動量を使って、約5km×5km格子点の地殻変動量が計算されます。この内挿には、TKY2JGDと同様に、クリギング法が使われています。地殻変動の期間は、元期からその年度の1月1日までです。1月1日の地殻変動量は、電子基準点の日々の座標を決めている「F3解(Final Solution)」によって推定されています。

図9は、地殻変動補正パラメータを使って、元期から2018.0までの累積地殻変動図です。西日本及び北海道は、元期1997.0から2018.0までの21年間の累積地殻変動です。2011年東北地方太平洋沖地震地域の1都19県は、元期2011.4から2018.0までの6.6年間の累積地殻変動です。

地図は、元期の位置で表示されています。2018.0における衛星測位結果は、図9に示す累積地殻変動量だけ位置のずれとなります。日本最西端では、1.5mのずれになります。東北の震源付近の余効変動の大きい地域では1m程度のずれになります。従いまして、dm級の位置の正確さを確保するためには、地殻変動補正が必要になります。

 

5.2  セミ・ダイナミック リダクション

セミ・ダイナミック補正に使う地殻変動補正パラメータは、既に述べましたように、国土地理院が毎年4月1日に公開するものです。この補正に使う地殻変動補正パラメータは、日々の座標であるF3解から推定されたその年の1月1日の「今期(yy.0)」の座標が、その年度1年間を通じて使われます。年度末の3月の座標は、15か月前の座標であり、その期間のずれに相当する地殻変動誤差が生じます(図10参照)。誤差の平均的な大きさは、年間変動量に相当する数cm余と推定できます。

 

 

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図10 セミ・ダイナミック リダクション

 

 

精密単独測位(PPP)のような座標観測は、その年度末誤差をまともに受けます。当社は、国土地理院が公表する日々の座標(F3解)を使って、地殻変動を受けたリアルタイムの観測値を元期に化成(リダクション)するcm級位置の正確さを保証する「セミ・ダイナミック リダクション」を開発しました。このシステムは第3期地理空間情報活用推進基本計画に基づくもので、用語は公的なものではありません。セミ・ダイナミック補正は、位置の相対測位に対する地殻変動量の微分量を補正するものです。それに対して、セミ・ダイナミック リダクションは、位置の絶対測位に対する地殻変動量の積分量の補正になります。

 

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