空間データの品質
第8回 位置正確度検査の課題と提案
2011年02月21日
位置正確度の検査は、JPGISでは絶対位置正確度と相対位置正確度を行うことになっています。絶対位置正確度とは、検査対象の絶対位置の真又は真と見なす座標がわかっている場合に、座標値と真又は真と見なす座標を比較して誤差を求めることを言います。また、相対位置誤差とは、任意に決められた原点と品質評価の対象となる相対位置の真又は真と見なす座標がわかっている場合に、相対位置と真又は真と見なす座標を比較して誤差を求めることを言います。しかし、位置正確度については、実際の方法を調べてみると多少問題があるように思います。そこで、ここでは、位置正確度の検査の現状と課題を提起させていただきます。
位置正確度1.75mの疑問
測量機器の進歩は、フイルム撮影から、GPS付デジタル撮影へ、アナログ図化機からデジタル図化機へ、平板測量から、GPS測量へと目覚ましいものがあります。しかし、昔から縮尺1/2,500の位置正確度は、機器が進歩して、精度も上がっているはずなのに、変わらず標準偏差で1.75m以下とはどうしてでしょうか。
筆者の知る限りでは、少なくとも30年以上変わっていないのではないでしょうか。変わっていないということは、①位置正確度が昔は入っていなかったが、今ようやく精度に入るようになった。②位置正確度が昔も今も入っている。のいずれかでしょうか。しかし、残念なことにデータがありませんので比較することはできません。真剣に検討して見る必要がなると考えています。
次に、標準偏差で1.75m以下ということは、一部の空間データの位置正確度が3mや5mのずれがあっても“良し”としています。しかし、一方で、接合は、両者の線分が1.75m以内のずれ場合に両者のずれの中間線で接合することになっています。但し、1.75m以上のずれがあった場合には、測量等をし直して接合するようになっています。このことに筆者は、矛盾を感じています。位置正確度で標準偏差1.75m以内なら合格であるとするなら、接合も両者の中間線で接合すれば良いわけで、1.75m以上のずれの場合に接合しないとするなら、位置正確度の標準偏差をなくして、位置正確度の仕様を1.75m以下とすれば良いわけです。
空間データを利用する人にとって、着目する地物とその座標はそれぞれ異なります。位置正確度の誤差が1.75m以内のあると思って解析したところ、その点が万に1つの5mもずれていたのでは泣くに泣けないでしょう。
位置正確度ではOKを出しておきながら、接合ではNOとする矛盾をなくすためにも、位置正確度から標準偏差を取るようにすべきだと考えますが、現状の技術では出来ないものでしょうか。できないとしたら、何を改善しなければならないでしょうか。
最近起きた事例
筆者がコンサルを行っているA市で発生した事例についてご紹介いたします。
A市で、地形図の更新を行うため、国土地理院に地形図更新の実施計画書を申請し、国土地理院からは、次の助言をいただきました。
助言には、“隣接地域に基盤地図情報があるので、境界部において位置座標を基盤地図情報に接合されたい。”
しかし、筆者は、この助言に対して次の疑問を感じています。
- 境界部を基盤図情報に接合させることは、新しいものを古いものに合わせるということで、隣接部の経年変化を無視することになり合理的でない。
- 境界部を基盤図情報に接合させることは、一元的に基盤地図情報の隣接地域の位置座標が正しいという前提であり納得できない。
A市の地形図の整備更新は、市域の外側10mの全地物の取得、道路、鉄道については50mまで整備することになっています。従って、完全に隣接市と空間データがオーバーラップすることになっています。また、新規の場合の位置正確度の検査は、GPS測量で1図郭2点以上を行い、更新の検査は、GPS測量で加除訂正箇所の5%以上を行うことになっています。また、毎年度オルソ画像を1/1,000の精度で作成しています。
隣接付近のA市が行ったGPSデータと空間データ7点の差は0.07m~0.30mの誤差に入っていますが、基盤地図情報とGPSデータの差は、0.73m~2.3mとなっています。
もちろん、地図情報レベル2,500の位置正確度は、標準偏差で1.75mとなっていますので、2.3mの誤差のものがあっても、位置正確度を満足していないと言うつもりはありません。しかし、接合は、正しい方に悪い方を合わせるしかないと考えています。
ちなみに、岐阜県では、複数の異なる計画機関(市町村、県)が作成した空間データから県域統合共有空間データの更新における更新部分と非更新部分との接合は、全体調整として別に整合作業を行っています。整合作業は、どちらの位置正確度が高いかを調べて、精度の高い方に合わせていていますが、そのためには、作業機関における社内検査時の現地測量、受入品質検査時における現地測量のデータは有効な情報と言えるでしょう。
第三者機関による検査方法
第5回に「第三者機関の測量成果検定と課題」で、調査した3機関のDMデータの位置正確度の検査方法は、①基準点の検査、②測量成果簿の検査、③検査していない、のいずれかの方法で検査しています。DMデータは、写真測量によって空間データを作成しているので、これを前提として話を進めます。
第三者機関が位置正確度を検査していないことは、問題外ですが、基準点の検査、測量成果簿による点検にしても問題があると考えています。
位置正確度を基準点の検査で行っているということについては、アナログ図化機で作成していた時代は、地上に対空標識を設置して基準点、水準点、標定点をもとに調整計算を行ってきました。しかし、最近の撮影は、GPS/IMUを搭載した機器で行っており、対空標識はほとんどの場合に設置しておりません。基準点は、単にその座標を空間データとして取り込んでいるだけであり、図化機からの読み取りや、現地測量等の他の地物の座標とは独立して存在している関係にあります。従って、空間データ上における基準点の位置が精度内に入っていると言っても、それ以外の地物が精度以内に入っているという保証は何もないというのが現実です。従って、基準点の検査は位置正確度の検査としては全く意味がありません。
また、位置正確度を測量成果簿の点検で行っているということについても、問題があると考えています。なぜなら、準則では、絶対位置正確度は、地物の位置の座標と、より正確度の高い参照データの座標との誤差の標準偏差を計算することになっており、絶対位置正確度の計測では、図化機による写真画像からの計測ではなく、別の計測方法によって取得した座標と空間データの値との比較によって算出すべきであると考えています。
位置正確度の検査方法は、第三者機関でも、作業機関でも準則に基づいて行われていません。従って、位置正確度の検査方法については、問題があると考えていますが皆様はいかがお考えでしょうか。
提案する検査方法
筆者は、検査とは、絶対的に正しい真値、又はそれに近い値と、検査する成果物とを比較して、許容値に入っているかを調べることにあります。そのためには、作成時と同じ方法で行ったのでは、作成に係る誤差が含まれており、検査とは言えません。位置正確度を検査する場合に、写真で検査しても、そこに含まれる誤差は、写真が持つ誤差と、オペレータの位置決めのための誤差が含まれています。準則では、写真測量の調整計算は、基準点のどれか1点を用いて調整計算を行った後、その他の点を検証点として精度点検を行い、GPS/IMUにおける検証点の許容標準偏差は、地理情報2,500レベルで水平位置が0.9m以内と規定しています。また、調整計算簿を用いて点検を行い、精度管理表を作成し、その値が地理情報2,500レベルで水平位置が0.75m以内と規定しています。ご理解いただきたいことは、これから、取得したい空間データの原典資料は、本質的に地理情報2,500レベルでは、水平位置が0.75m以下の誤差を含んでいる可能性があります。この0.75mは地図情報レベル2,500の許容誤差の43%にあたります。従って、位置正確度の検査は、この誤差を含まないものと比較する必要があると考えています。図化機で検査した場合には、その誤差は、単にオペレータの位置決め誤差を計測したにすぎないことを理解して欲しいものです。
そこで、筆者は、位置正確度の真値を求めるため、GPSによる現地測量を行って、その値と空間データの値を比較することにしています。
岐阜県では、県域統合共有空間データの整備の当初から位置正確度の検査をGPSによる現地測量と空間データを比較して検査することにしています。但し、現地測量の課題は、私有地に入れないという課題があり、現状では、道路の現地測量に限られています。
おわりに
位置正確度は、測量機器が発達してきているにもかかわらず、長年に渡って“入っていない”“隣の市町村と合わない”という声が言われ続けてきました。しかし、残念なことにいまだその位置ずれの原因分析が完了しているとは言い難いものがあります。
位置正確度の検査方法は、地図情報レベル2500データ作成製品仕様書(案)では、“ロットごとに、ロット全体の面積の2%の検査単位を抽出する。検査単位の 1/2(1%分)は監督員が指定するメッシュを対象とし、残りの1/2(1%分)は無作為抽出によってメッシュを選択する。無作為抽出は、250m メッシュに一連の番号を付し、乱数表を使用して抽出する。ただし、不適当なメッシュを抽出した場合は、隣接メッシュを採用する。”
また、基盤地図情報では、“2%のうち,半分の1%は監督員の任意抽出,1%は無作為抽出で抽出する。検査単位の抽出は,地理情報レベル 2500 の場合,整備地区を経緯度方眼(3 次メッシュを横3 等分,縦2 等分:東西15”×南北15” 東京付近で東西約 380m×南北約 460m 約0.175k ㎡)または距離方眼(長辺500m×短辺400m 0.2k ㎡)で区切り,地区の左上方隅より順次一連番号を付し,監督員が危険度の高い地域から任意に1%を抽出し,別に乱数表により無作為に1%を抽出する。”としています。
しかし、この表現で不足している情報は、①位置正確度の検査は、全地物に対して行うものか、特定地物に対して行うものか、わからない。②1%とは、その分母は全地物数なのか、特定地物数なのかわからない。このようなあいまいさが、検査密度をどんどん粗くする要因となっているように思います。
筆者は、この抽出数(%)がどのような根拠で決まったものかわかりません。しかし、現実の問題として、位置正確度の誤差が発生しております。このようなことから、誤差の発生源の基礎的調査の上で、抽出数を再検討する必要があるのではないかと、考えております。