連載
第2回 天体基準座標系 補足
2017年06月07日
2.3 その他の座標系
前回は、ICRS/ICRFの話をしました。ICRSは太陽系の重心を原点とし、宇宙のかなたにあるクエーサーなどを準拠として3軸の方向を決めていました。しかし、よく見るとICRSの定義は原点と軸の方向のみなので、星の位置(赤経、赤緯)を決めるのにはよいのですが、それだけで太陽系内の天体や飛翔体の運動を記述することはできません。物体の運動を記述するには、空間座標軸とともにその長さ、そして時間軸が必要だからです。また、私たちが観測するのは地球からなので地球付近ではどうなるのかという問題があります。実は、そのための座標系もきちんと考えられています。そして最終的に地球の基準座標系につながるのです。
BCRS(太陽系重心天体基準座標系)
太陽系重心を原点とした4次元座標系です。4次元とは、空間3次元と時間です。第1回でもふれたように、宇宙の観測や運動の方程式はアインシュタインの一般相対論の枠組みで記述されるので、長さと時間のスケールは場所によって変わります。BCRSの時間座標は太陽系重心の時間となります。そして空間座標の軸の方向はICRSと一致させることになります。惑星の運動や太陽系の中を進む惑星探査機の運動はこの座標系で記述されます。
GCRS(地心天体基準座標系)
地球重心を原点とした4次元座標系です。空間軸はBCRSから見て回転がないように定義されます(地球と一緒には回転しない)。時間座標は地心の時間です。地球付近の人工衛星の運動はこの座標系で記述されます。
これらの座標系の関係を図1に示しました。BCRSの空間軸はICRSと同一となり、地球は太陽の周りを自転しながら公転していますがGCRSの座標軸はBCRSに平行です。
GTRS(地心地球基準座標系)
ところで、地球表面のことを記述するのには、地殻に固定された基準系が便利です。その座標系をGTRSといいます。GTRSは地球の自転と一緒に回転し、GCRSとは歳差・章動・極運動等の地球回転パラメータによる座標回転で結びついています(図2)。次回お話しするITRSは、GTRSの空間部分と考えても差し支えありません(GTRSは時間も含めた4次元座標系、ITRSは位置のみを表す3次元座標系です)。また、地球回転パラメータについては、次回以降にあらためてご紹介します。
略語集
BCRS Barycentric Celestial Reference System 太陽系重心天体基準座標系
GCRS Geocentric Celestial Reference System 地心天体基準座標系
GTRS Geocentric Terrestrial Reference System 地心地球基準座標系