座標系講座 生活編
第1回 その3 – 測量法に基づく測量の基準
2020年03月16日
6. 震災復旧測量
1880年代に測量が開始された直後の1891(明治24)年に測量中の岐阜県濃尾地方で巨大地震が発生しました。この地震の規模は、マグニチュード8.0で、世界でも最大級の内陸直下型地震でした。地震に伴う地殻変動は、震災復旧測量として修正されてきました。
6.1 測量法第31条(測量成果の修正)
昭和24年の測量法第31条(測量成果の修正)は、“国土地理院の長は、地かく、地ぼう又は地物の変動その他の事由により基本測量の測量成果が現況に適合しなくなった場合においては、遅滞なく、その測量成果を修正しなければならない。”と定めています。図11は、濃尾地震後の日本測地系時代に発生した地震とその復旧測量地域です。火山活動地域及び採炭による地盤変動域も含まれています。
図11 地震・火山による改測・改算された地域及び地盤変動の大きい炭坑地域
6.2 PatchJGD座標補正
2002年度の日本測地系2000施行後、2003年に十勝沖地震(マグニチュード8.0)が発生しました。この地震は、震源が海部である海溝型であったため、陸地での地殻変動は、比較的一様なものでした。この地震による測量成果修正のため、地震前の座標を地震後の座標に補正するPatchJGD(参考文献3.飛田、2009)が開発されました。TKY2JGD座標変換プログラムと同様、三角点等の新旧座標差から1km×1kmの格子点上の座標補正量が計算され、これは「座標補正パラメータ」と呼ばれています。2003年十勝沖地震が発生した地域は、このPatchJGDにより測量法第31条に定める測量成果の修正が行われました(図12)。
この地震に伴う地殻変動は、北海道中央部において地殻変動がない不動地域と仮定して南半分の地域の地殻変動が計算されました。帯広地方では、1mに達しています。従いまして、この地震地域における日本測地系地図と衛星測位との整合は、次のような補正が必要になります。
- TKY2JGDによる日本測地系から日本測地系2000への座標変換:約450m
- PatchJGDによる2003年十勝沖地震の地殻変動補正:最大1m
- セミ・ダイナミック補正(又はセミ・ダイナミック リダクション):dm
図12 PatchJGDによる座標補正パラメータが公開されている地域
7. 2011年東北地方太平洋沖地震と日本測地系2011
2011年3月11日の「2011年東北地方太平洋沖地震」は、広範囲に渡って大きな地殻変動を発生させました(図13)。地震発生後、東北、関東及び北陸地方等の1都19県の約4.4万点の測量成果が公表停止されました。水準点約1500点も併せてその成果が公表停止されました。公表停止された地域における約1846点が、364点の電子基準点を既知点として改測され、地震後の成果とされました。これらの地震後の成果約2200点の地殻変動量から地殻変動補正が計算され、PatchJGDにより、約4.1万点の三角点成果の修正が行われました。
この測量成果は、「日本測地系2011」とされました。日本測地系2011は、地震の影響を受けた地域だけでなく、日本の測量成果全体が日本測地系2011と名付けられました。
図13 2011年東北地方太平洋沖地震に伴う地殻変動
国土地理院(http://www.gsi.go.jp/common/000059672.pdf)による
2003年の十勝沖地震等これまでの地震の地殻変動は、日本国内に不動点が仮定され、その不動点を既知点として改測により、地震後の位置が計算されました。2011年東北地方太平洋沖地震の場合、地殻変動規模が大きく、図14に示すように、国外に不動点が設けられました。ITRF2008観測網のうち日本周辺の5か所のVLBI観測点を選び、つくばVLBI観測点の座標を決定しました。つくばVLBI観測点の座標は、ITRF2008(元期2011.4)と決められました。
図14 周囲5点を不動点としてつくばVLBI観測点の地殻変動後の座標を決定
図15は、座標補正パラメータから計算した最大剪断歪です。震源地に近い地域において歪みが大きく、こうした地域において、PatchJGDによる座標補正は、慎重に検討すべきです。
図15 PatchJGDによる座標補正誤差の推定
国土地理院公開の座標補正パラメータを利用してアイサンテクノロジー社が図化
図15に示す地震域において、日本測地系2000に基づく地図は、衛星測位結果と最大5mの座標補正量相当のずれを生じます。そのずれを無くすには、PatchJGDによる座標補正を行い、日本測地系2011の座標の地図で扱わなければなりません。
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