座標系講座 生活編

第3回 土地の高さ

測量法上の土地の高さは、測量法第11条に基づくもので、日本水準原点を出発点に水準測量により水準点の高さが決められます。この高さは、定常的地殻変動の影響を考慮しないスタティック標高系によるものです。また、衛星測位による楕円体高の測定結果からジオイド高を減じて得られる高さがあります。この高さは、セミ・ダイナミック測地系の扱いで、地殻変動の影響が考慮されています。当然、これらの2種類の高さは、一致しません。なお、測量で使われる高さは「標高」と呼ばれています。また、ISOでは、「重力関連高(gravity related height)」と呼ばれています。

 

1. 水準測量により得られる標高

地殻変動の大きい日本列島では、明治以来9回余り繰り返し水準測量が行われてきました。水準測量路線は、連載第1回の図5に示したところです。こうした改測成果に基づいて、1969年(北海道は1972年)に水準点標高成果が更新されました。その後、世界測地系導入時に「2000年度平均成果」として更新されました。

2011年東北地方太平洋沖地震に伴って、水準点約2000点が改測されその成果が修正されました。この地域は、余効変動が大きく、2017年及び2018年に再度改測が行われ水準点成果の修正が行われました。

 

2. 衛星測位により得られる標高

衛星測位から得られた楕円体高からジオイド高を差し引いて、標高を求めることができます。ジオイド高は、国土地理院によって公開されています(図1)。

 

 

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図1「日本のジオイド2011」(Ver.2)

等ジオイド高線間は1m,適用:赤枠内「日本のジオイド2011」(Ver.2)で更新した地域,
その他の地域「日本のジオイド2011」(Ver.1)

国土地理院(http://www.gsi.go.jp/common/000196728.pdf

 

 

衛星測位から求める楕円体高からジオイド高を減じて得られる標高は、地殻変動の影響を考慮したセミ・ダイナミック測地系によるものです。図2は、国土地理院が公開した地殻変動補正パラメータを使って、元期から2018.0までの累積上下変動を表したものです。2011年東北地方太平洋沖地震時に1m程度沈下した石巻付近の余効変動は、その後最大で40cm程度隆起しています。

 

 

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図2 元期から2018.0までの累積上下変動量

国土地理院公開の地殻変動補正パラメータを利用してアイサンテクノロジー社が図化

 

 

この地域の住民は、景観上、防潮堤の高さを可能な限り低いものを望んでいました。そのためには、地震後の余効変動により隆起した高さだけ低くできます。測量法上の高さを決める水準点の高さを使った場合、隆起分は考慮されません。そんなこともあり、国土地理院は、再度水準測量を実施し、2017年2月に標高を決め、この標高により防潮堤の高さが決められました。ちなみに、隆起量は22cmになり、当初計画より22cm低い防潮堤建設が可能になりました。

 

3. 3種類の標高の選択

以上述べましたように、標高には2種類があります。水準測量から得られる標高は、地殻変動の影響は考慮されていない「スタティック標高系」です。一方、衛星測位の楕円体高は元期の標高であり、「セミ・ダイナミック標高系」になります。ただし、電子基準点の標高が水準測量によって決められ、ジオイド高を加えた楕円体高を使ってGNSS水準測量によって得られた標高は、スタティック標高系になります。更に、人間生活で必要な高さは、現時点の水面の高さに対応した値で、「ダイナミック標高系」によるものです。現時点の標高は、衛星測位により得られた観測時の標高からジオイド高を減じた値を使います。又は、東北地方のように、水準測量による成果の更新を行うことです。後者の場合、非常に手間がかかるので、衛星測位によるダイナミック標高系によるのが便利で、衛星測位の活用の場になります。

 

第4回 ISO(JIS)に基づく地球上の位置表示』へ

 

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