座標系講座 生活編

第4回 ISO(JIS)に基づく地球上の位置表示

2008年3月31日、国土地理院は57年ぶりに公共測量作業規程の準則を改正しました。この改正の大きな特徴は、ISOに基づく「地理情報標準プロファイル:JPGIS(Japan Profile for Geographic Information Standards)」を導入したことです。すなわち、日本の測量関係に国際標準が導入されたことであり、画期的なことです。

本章は、国土地理院ウェブサイトに示された下記文献等に基づいて地球上の位置表示を考察します。これらの文献は、基本的にISOに基づくもので、文献の引用は□で囲ってあります。

 

  1. 地理情報標準推進委員会 国土地理院、地理情報標準第2版(JSGI2.0)解説、平成14年3月
  2. 同上付録地理情報標準専門用語集Ver.2(以下、用語集という。)
  3. 空間データ製品仕様書作成マニュアルJPGIS 版、Ver.1.0、平成17 年3 月
  4. 地理空間データ製品仕様書作成マニュアル 平成26年4月(以下、製品仕様書作成マニュアル(平成26年)という。)
  5. JIS X 7111(2014)

 

なお、本章の多くは、(参考文献1.中根・横井,2015)における第2章を転写したものです。

 

1. 座標と座標系

下記は、用語集による「座標」及び「座標系」の定義です。

座標の定義 n 次元空間内の点の位置を示すためのn 個の数値の列の中の1つの数。
備考 座標参照系の中では,数は単位を付与することによって,意味をなす。
座標系の定義 点にどのように座標を割り当てるかを規定する(数学的)規則の集合。

 

図1は、「平面直角座標系(n=2)」及び「3次元直交座標系(n=3)」におけるそれぞれのP点の座標(2.0, 2.5)及び(1.3, 1.9, 2.3)を示したものです。

 

 

image1

図1 座標系(左:平面直角座標系、右:3次元直交座標系)と座標

 

 

次に測量で使う座標系の定義を考察します。

1.1 直交座標系

下記は、用語集による「直交座標系(Cartesian coordinate system)」の定義です。

定義 点の位置をN本の相互に直交する軸に関して与える座標系。
備考 この規格の目的では,Nは1,2又は3である。
筆者注: 国土交通省告示(平成14年国土交通省告示第9号)による「平面直角座標系」及び国土交通省告示(平成14年国土交通省告示第185号)「地心直交座標系」は、この定義に合致します。

1.2 楕円体座標系又は測地座標系

下記は、用語集による「楕円体座標系(ellipsoidal coordinate system, geodetic coordinate system)」又は「測地座標系(geodetic coordinate system)」の定義です。

定義 位置が測地経緯度及び(三次元の場合は)楕円体高によって指定される座標系。
楕円体高 h (ellipsoidal height)
楕円体高の定義 楕円体からある地点までの垂線に沿って測られる楕円体からその地点までの距離,楕円体の上側又は外側に向かう場合は正。
備考 三次元測地座標系の一部として使われるだけでそれ自体では使われない。

1.3 鉛直座標系

用語集は、「鉛直座標系(vertical coordinate system)」及び標高の定義を示していません。JIS X 7111(2014)は、標高(orthometric height)又は正規高(normal height)を表示する1次元の座標系として鉛直座標系を定義しています。ここでは、ISOの定義“gravity related height”が“標高”と日本語化されています。従って、JISでは、現代測地学で重要な役割をなす正規高の存在が薄められています。

 

2. 原子

下記は、用語集による「原子(datum)」の定義と解説です。

定義 別のパラメタの計算のために参照したり基礎として使われるパラメタ又はパラメタの集合。
備考 1)原子は地球に関係する座標系の軸の原点の位置,縮尺,及び向きを定義する。2)原子は測地原子,鉛直原子,又は施工基準原子であっても良い。
コメント dataは,科学的・学術的な著述においては,ほぼ決まって複数扱いとなる。その他の場合は,単数扱いとも複数扱いともなる。単数形の datum が「1つの情報」の意味で用いられるのは,いずれの場合でもまれである。測量学や土木工学では datum が専門語として使われるため,複数形は datums となる(小学館ランダムハウス英語辞典(Windows版)Version 1.1,1998)。Datumに対して「基準」と訳すべしとの意見があるが,測地学では古くから「原子」といっており,「基準」は準拠楕円体そのものをあらわすときに使うreferenceの訳語である。

2.1 測地原子

下記は、用語集による「測地原子(geodetic datum)」の定義です。

定義 座標系と地球の間の関連付けを記述する原子。
備考 多くの場合,測地原子は楕円体の定義を含む 。

JIS X 7111(2014)は、次のように定義していて、用語集の定義と若干異なります。

定義 :二次元又は三次元座標系と地球との関係を記述する原子。

 

測地原子の例

上記の定義に従えば、測地原子は、経緯度原点の緯度φ、経度λ及び楕円体高h並びに長半径及び扁平率です。経緯度原点の地心直交座標(X,Y,Z)は、楕円体の形状の原子である長半径及び扁平率の2量を与えれば、(φ, λ,h)と等価な測地原子になります。

 

日本の測地原子

国土地理院は、“測地原子は、測量法及び同施行令に拠る。”としています(質問に対する回答)。この基準によれば、日本の測地原子は、次のようになります。

 

  • 日本測地系:平成14年3月31日時点の測量法第11 条に定める回転楕円体の長半径及び扁平率並びに測量法施行令第2条に定める日本経緯度原点の地点及び原点数値により規定される測地原子。
  • 日本測地系2000:平成14年4月1日時点の測量法施行令第2条に定める日本経緯度原点の地点及び原点数値並びに同第2条の2に定める回転楕円体の長半径及び扁平率によって規定される測地原子。
  • 日本測地系2011:平成23年10月21日時点の測量法施行令第2条に定める日本経緯度原点の地点及び原点数値並びに同第3条に定める回転楕円体の長半径及び扁平率によって規定される測地原子。

 

以上のように、日本の測地原子は、日本測地系(Tokyo Datum)、日本測地系2000 (JGD2000)及び日本測地系2011(JGD2011)の3種類です。いずれも楕円体原子2量並びに位置の原子である日本経緯度原点の緯度、経度及び方位角であって、楕円体高は含まれていません。

 

2.2 鉛直原子

下記は、用語集による「鉛直原子(vertical datum)」の定義です。

定義 重力に関係する標高と地球の関係を記述するパラメタの集合。
備考 ほとんどの場合,鉛直原子は海水面と関係付けられることになる。楕円体高はある測地原子に準拠した三次元楕円体座標系に関連付けられたものとして扱われる。鉛直原子は水深測定用の原子(水路測量目的で用いられる)を含む。この場合,高さは負の高さ又は深さとしてもよい。

 

日本の鉛直原子

日本における具体的な鉛直原子は、“測量法施行令第2条に定める日本水準原点の地点及び原点数値によって規定される鉛直原子”です。鉛直原子の別名として“東京湾平均海面”及び鉛直原子の識別子として “TP”を適用しています。明治以来約130年間の日本の鉛直原子は、水準原点の標高が2回改正されているにもかかわらず、東京湾平均海面(TP)のみで表示されています。

 

3. 座標参照系

下記は、用語集による「座標参照系(coordinate reference system)」の定義です。

定義 原子により実世界に関連づけられた座標系。
備考

採用した座標で利用するための原子,座標系,及び換算(地図投影法のような)の定義を含む。

JIS X 7111(2014)は、座標参照系を「測地座標参照系」と「鉛直座標参照系」に分けています。

 

3.1 測地座標参照系

「測地座標参照系(geodetic coordinate reference system)」は、測地原子に基づく座標参照系です。測地座標参照系には、次のようなものがあります。

 

三角測量の測地座標参照系

三角測量時代の測地座標参照系は、2次元表示です。

 

  1. 測地原子(経緯度原点の緯度、経度及び方位角)により地球上の位置を表示する楕円体座標系(緯度、経度)
  2. 測地原子(経緯度原点の緯度、経度及び方位角)により地球上の位置を表示する平面直角座標系(系:X座標、Y座標)

 

衛星測位の測地座標参照系

衛星測位時代の測地座標参照系には次のものがあります。

 

  1. 測地原子(経緯度原点の緯度、経度及び楕円体高並びに楕円体の形状を表す原子)により地球上の位置を表示する楕円体座標系(緯度,経度,楕円体高)
  2. 測地原子(経緯度原点のX,Y,Z)により地球上の位置を表示する地心直交座標系(X,Y,Z)。楕円体の形状を表す原子が与えられれば、上記1.の座標参照系と等価である。
  3. 測地原子(経緯度原点の緯度及び経度)により地球上の位置を表示する平面直角座標系(系:X座標,Y座標)

 

日本における座標参照系

製品仕様書作成マニュアル(平成26年)は、“JPGISに準拠する製品仕様書では,『附属書2(規定)座標参照系』に従い,地理空間データ製品の座標参照系として『JIS X 7115附属書2(規定)日本における座標参照系の表記』に定められた表記規則に基づく識別子を記述する。” として、座標参照系の記述方法を次のように定めています。

座標参照系(識別子)= 原子 / 座標系

【注】原子と座標系を区別する「 / 」の両側は半角スペースを入れる。

 

具体例として、次が示されています。

測地原子 別名:日本測地系2011 識別子:JGD2011
測地座標系 別名:緯度,経度 識別子:B,L
測地座標参照系 別名:日本測地系2011 / (緯度,経度) 識別子:JGD2011 / (B,L)

 

測地原子 別名:日本測地系2011 識別子:JGD2011
平面直角座標系 別名:平面直角座標系Ⅶ(X座標,Y座標) 識別子:7(X,Y)
測地座標参照系 別名:日本測地系2011 / 平面直角座標系Ⅶ(X座標,Y座標) 識別子:JGD2011 / 7(X,Y)

3.2 鉛直座標参照系

鉛直座標参照系(vertical coordinate reference system)は、鉛直原子に基づく座標参照系です。鉛直座標参照系には、次のものがあります。

鉛直原子 別名:東京湾平均海面 識別子:TP
鉛直座標系 別名:標高 識別子:H
鉛直座標参照系 別名:東京湾平均海面 / 標高 識別子:TP / H

3.3 複合座標参照系

下記は、用語集による複合座標参照系(compound coordinate reference system)の定義です。

定義 独立した二つの座標参照系による空間位置の記述。
利用例 二又は三次元の幾何的な座標系を基礎とする座標参照系及び重力に関係する標高系に基づくもう一つの座標参照系。

 

下記は、測地座標参照系と鉛直座標参照系による複合座標参照系です。

別名 日本測地系2011, 東京湾平均海面 / (緯度,経度), 標高
識別子 JGD2011, TP / (B,L), H
別名 日本測地系2011, 東京湾平均海面 / 平面直角座標系(X座標,Y座標) , 標高
識別子 JGD2011, TP / 7(X,Y), H
【注】 原子1と原子2の区切りは「,」の後に半角スペースを入れる。同様に、異なった座標系の区切りとして「,」の後に半角スペースを入れる。

 

 

 

image2

図2 複合座標参照系

 

 

3.4  地心直交座標参照系の例

JIS X 7111(2014)は、三次元測地座標参照系(地心直交X,Y,Z)を示しています。それにならえば、次の座標参照系をつくることができます。

 

 別名: 日本測地系2011 / 地心直交座標系(X座標,Y座標,Z座標)

 識別子:JGD2011 / (X,Y,Z)

 

地心直交座標系の日本経緯度原点の測地原子は、平成23年10月21日国土交通省告示第1063号に定められています。

 

4. 座標演算

下記は、用語集による「座標演算(coordinate operation)」の定義です。

定義 ある座標参照系から他の座標参照系への一対一の関係に基づく座標の変更。
備考 座標変換及び座標換算の上位型。

4.1 座標変換

下記は、用語集による「座標変換(coordinate transformation)」の定義です。

定義 異なる原子に基づくある座標参照系から他の座標参照系への一対一の関係による座標の変更。
備考 座標変換は両座標参照系で共有する点の集合により経験的に導くことができるパラメタを使用する。
コメント この定義は測地学の定義である。
筆者注: 日本における座標変換の代表例は、①日本測地系と日本測地系2000 ②ITRF94とITRF2008です。

4.2 座標換算

下記は、用語集による「座標換算(coordinate conversion)」の定義です。

定義 同一原子上におけるある座標系から他の座標系への一対一の関係に基づく座標の変更[地理情報標準第2版-座標による空間参照]
利用例 測地座標系と直交座標系間の換算,測地座標と投影座標間の換算,若しくはラジアンと度のような単位の換算。
備考 換算には定数パラメタを使用する。
筆者注: 座標換算の代表例は、3次元の場合、楕円体座標参照系(B,L,h)と地心直交座標参照系(X,Y,Z)です。2次元の場合、楕円体座標参照系(B,L)と平面直角座標系(X,Y)です。

4.3 座標変換と座標換算の区別

古い教科書類は、座標変換と座標換算の定義が明確でなく、両者はひっくるめて座標変換の用語でまかなわれることが多く見られました。その影響と思われますが、準則の計算式集に記載された平面直角座標系と楕円体座標系との距離及び方向角の化成(reduction)変換(transformation)とされています。

 

『第5回 まとめ』へ

 

参考文献

1.中根勝見、横井貴史(2015):衛星測位時代における測地学・ISO・測量法に基づく地球上の位置を表す理論とその仕組み、アイサンテクノロジー株式会社.

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