座標系講座 生活編

第1回 その4 – 測量法に基づく測量の基準

8. フレーム境界における座標の不整合

日本全国に約1,300点の電子基準点が配置され、これらの電子基準点の座標は、「ITRF2005」に基づく「IGS05」と結合し、リアルタイムの位置が正確に決められています。一方、日本の位置は、測量法第11条によって定められていますから、日々得られる電子基準点の位置は、測量法上の位置ではありません。測量法的には、日本経緯度原点を出発点として、日本全国の位置が決められます。

 

 

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図16 座標補正量

色塗り地域ITRF2008(元期2011.4)及び白色地域ITRF94(元期1997.0)

国土地理院<http://www.gsi.go.jp/common/000109975.png>より

 

 

図16は、2011年東北地方太平洋沖地震地域における座標補正量です。色塗り地域は、ITRF2008(元期2011.4)で地震後の座標へと補正がされた地域です。それに対して白色地域及び北海道は、ITRF94(元期1997.0)で、座標は地震前のままです。日本の座標系は、測量法的には二つのフレームで構成されています。そのため、フレームの境界では座標の不整合が生じます。その座標の不整合を調整するため、富山県、石川県及び福井県の北陸3県並びに岐阜県の4県がその緩衝地域となりました。ただし、本州―北海道境界は、津軽海峡で隔たれていますから、フレームの食い違いは、直接影響が生じません。以下、その考察を行います。

図17は、国土地理院公開による地震直後の「Semidyna2011.par」を使ってアイサンテクノロジー社が図化したものです。2011年東北地方太平洋沖地震の1都19県の位置は、元期2011.4です。一方、Semidyna2011.parの基準日は、元期と同じ2011.4となっています。従いまして、ITRF2008(元期2011.4)地域の地殻変動補正量は、ITRF2008座標及びパラメータ計算に用いたF3解の座標に誤差が無いとすれば、零になるはずです。

 

 

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図17 地殻変動量図

国土地理院公開「Semidyna2011.par」を利用してアイサンテクノロジー社が図化

 

 

図18は、緯度35°30’ に沿ったJGD2000(元期1997.0)からJGD2011(元期2011.4)への座標補正及びJGD2011への地殻変動補正量を示したものです。ITRF2008(元期2011.4)の地域における地殻変動補正量は 、本来零のはずです。ITRF94(元期1997.0)と整合させるため、フレーム境界においてITRF94(元期1997.0)による地殻変動量と整合させています。一方、座標補正は、境界付近の補正量を零に近くして、フレーム境界での座標の不整合を生じないようにして(参考文献4. 檜山他,2011)図16に示す座標補正を行っています。

 

 

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図18 緯度35°30’に沿った座標補正及び地殻変動補正

 

 

2011年3月14日の座標修正の当初計画は、長野県及び新潟県がフレームの境界でした。しかし、境界での不整合が大きく、5月31日に、北陸・岐阜4県がフレーム境界の不整合の緩衝地域ITRF2008に組み込まれました。この地域は、ITRF2008で元期及び今期ともに2011.4であるにも関わらず、地殻変動補正量は、零でなく緩衝のため地殻変動補正量(図18)が与えられています。

 

 

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図19 緯度35°20′に沿ったフレーム境界:静岡県(元期1997.0)-神奈川県(元期2011.4)間の
地殻変動補正及び座標補正(東西)

 

 

静岡県と神奈川県のフレーム境界の場合、北陸・岐阜4県のような緩衝地帯がなく、図19に示すように、地殻変動補正の緩衝地域を静岡県側に設定しています。座標補正は、ITRF94のフレームである静岡県を零として、神奈川県側の座標補正量が示されています。

 以上のまとめとして、次のことが言えます。

  1. 日本列島の測量法上の位置は、ITRF94(元期1997.0)とITRF2008(元期2011.4)の二つのフレームを使っている。
  2. フレームの境界である本州と北海道の境界は、津軽海峡で陸続きではない。そのため、陸地上での座標の不整合は、問題にならない。
  3. 東日本と西日本のフレーム境界は、北陸・岐阜4県の座標の緩衝地域を設けることで、座標の食い違いをグラデーション化している。
  4. 北陸・岐阜4県の三角点及び電子基準点座標は、ITRF2008(元期2011.4)である。地殻変動補正(基準日2011.4)は、零のはずであるが、緩衝処理分だけ零から離れる。
  5. そのため、北陸・岐阜4県において得られた精密単独測位の座標は、座標緩衝処理分を考慮した地殻変動補正量により、測量法上の位置にする。

 

8. 地図の品質

「公共測量作業規程の準則」第80条数値地形図データの位置精度及び地図情報レベルは、表2を標準とすることを定めています。誤差の許容範囲を2σとすれば、衛星測位結果と地図は、下表の2倍程度の位置のずれを生じることになります。ただし、地図の品質評価が定かでない民間事業により作成された地図の品質は不明です。

 

 

表 2 数値地形図データの位置精度及び地図情報レベル

2020-03-11_13h18_59

 


10. まとめ

準天頂衛星4機体制は、2018年度中に運用が開始され、日本における衛星測位の活用が一段と高まります。既に述べてきましたように、正確な衛星測位結果が、私達国民生活に貢献するには、地上での正確な地図等の位置情報と対でなければなりません。その地上の位置情報は、測量法第11条測量の基準が大きな役割をしています。以下にその内容を列挙します。

  1. 明治時代から2001年度までに作成された位置は、古い技術である天文測量及び三角測量によるもので、現在の衛星測位の位置と約400m余りずれています(図3)。これらの古い地図は、国土地理院が提供するTKY2JGD座標変換プログラムと座標変換パラメータに基づいて、衛星測位成果である世界測地系(日本測地系2000)に座標変換しなければなりません。
  2. 2011年東北地方太平洋沖地震により大きな地殻変動を受けた地域(図13)においては、PatchJGD座標補正プログラムと座標補正パラメータに基づいて、地震後の日本測地系2011へ座標補正しなければなりません。最大の補正量は、5m程度(図16)です。
  3. 日本列島の定常的地殻変動は、年平均数cmと大きく(図9)、元期の位置で作成された地図との整合は、地殻変動補正パラメータ又はセミ・ダイナミック リダクションにより、元期の位置に還元しなければなりません。平均的補正量はdm単位ですが、沖縄及び東北の余効変動域では最大の補正量は1mを超える地域があります。
  4. 2003年十勝沖地震等による地殻変動は(図12)、PatchJGD座標補正パラメータにより地殻変動後の位置に補正しなければなりません。最大の補正量は1m程度です。
  5. 現存の地図は、①日本測地系から世界測地系への座標変換誤差②地図作成誤差などの地図作成誤差を有しています(表2)。誤差の大きさはdm単位です。

 

『第2回 地理空間情報活用推進基本法等衛星測位関連法』へ

 

参考文献

  1. 宮原伐折羅(2015):地球規模の測地基準座標系に関する国連総会決議と国土地理院の貢献,国土地理院時報 No.127
  2. 飛田幹男(2002):世界測地系移行のための座標変換ソフトウエア“TKY2JGD”,国土地理院時報 No.97.
  3. 飛田幹男(2009): 地震時地殻変動に伴う座標値の変化を補正するソフトウエア”PatchJGD”,測地学会誌,第55巻, 355-367頁.
  4. 檜山洋平・山際敦史・川原敏雄・岩田昭雄・福﨑順洋・東海林靖・佐藤雄大・湯通堂 亨・佐々木利行・重松宏実・山尾裕美・犬飼孝明・大滝三夫・小門研亮・栗原 忍・木村勲・堤 隆司(2011):平成23 年(2011年)東北地方太平洋沖地震に伴う基準点測量成果の改定,国土地理院時報 No.122.
    http://www.gsi.go.jp/common/000064457.pdf

 

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